東京異界録 第3章 第4録

 「ゲ、ゲームって、どういうこと」
 翔(しょう)君の言っていることが分からず、聞き返す私。当然、バスケのことを指しているわけではないだろう。
 「加阿羅(カーラ)、ボケなくていいので卒直に」
 ん~、と、うなっていた長男をけん制したクサナギ。一瞬止まった彼は、明るいため息をついた。おいおい。
 「さっき体が重く感じたでしょ~」
 「うん。上から何かのしかかるような感じがしたわ」
 「実はそれ、結界の影響なんだよね~」
 要(かなめ)の立場にいる妖怪は語り出す。カグナさんの力を借りた結界は、能力者だけを呼び、怨鬼(おんき)と怨霊が放たれた内部で戦いを繰り広げる、と。
 「もちろん君も参加者だよ~。雪祥(ゆきひろ)君と涼太君も呼んであるからね~」
 「はあっ。ちょっと待ってよ、何でそんなワケの分からないことをしなきゃなんないのよっ」
 「まあまあ、聞いてよ~」
 思わず胸ぐらを掴んでしまったが、ちゃんと理由があるらしい。
 座り直すと、
 「怒るのは無理ないから、後で聞くとして」
 加阿羅(カーラ)君は、こう続ける。
 この学校には能力者が異常に多い、ということがわかっている。そのため、彼らの内、誰が敵で誰が味方なのかを確認するためだという。
 また、この騒ぎに便乗して、十二月(じゅうにげつ)がやってくるかもしれない、とも。
 つまり、全校生徒が参加している今日が絶好の日和なのだ。
 「別にふざけてるわけじゃない。君たちにはちゃんとおれたちが護衛につくし」
 「で、でも、ユキと如月君まで巻き込まなくたって」
 「彼らも立派な当事者だ。誘わないと失礼だよ」
 と、加阿羅(カーラ)君。他にも考えていることがあるようだが、今は他の能力者と接触して勝つことだと話した。
 「加濡洲(カヌス)と伽糸粋(カシス)もいるし、回復役にクサナギもいる。余程のことがない限り問題ない」
 頭の中で整理が追いつかない。筋は分かるのだけど。
 見計らったように、発案者は、
 「今日のことが終わったら、君が疑問に思っていることを全て答えられると思う」
 どうして狙われるのか、保護されているのかとか気になっていただろう、と長男。まるで私の頭の中を読んでいるみたいだ。
 「加阿羅(カーラ)、本当に伝えていなかったのですか」
 「ああ。ちゃんと考えあってのことだ」
 勝手知ったる仲だからだろうか、そのひと言で現状を理解したらしいクサナギ。
 しばらくの沈黙のあと、シュンと風景を一変させる音がする。参加者の四人が集まったのだ。
 「うわ、何このビミョーな空気」
 これからおっぱじめるんでしょ、と学ランを着た天真爛漫なユキ。若干いたたまれない雰囲気を、よい意味で破壊してくれた。
 「加阿羅(カーラ)、どこまで話したの」
 「冒頭部分だけ。組み合わせについてはこれからだ」
 能力者の見わけと物の怪退治をするのに、この人数で動くのは効率が悪い。
 そのため、三つのチームに分けるという。
 内訳は、私と加濡洲(カヌス)君、ユキと如月君と伽糸粋(カシス)ちゃん、そして、何と明日香ちゃんとプリムと加阿羅(カーラ)君らしい。
 明日香ちゃんは自ら志願したらしく、さすがに一人では危険なため、長男がつくことになったとか。彼らいわく、バランスは取れているらしい。
 「プリムは以前倒してしまっただろ」
 「彼女は人間ではありません。人形に魂が宿っているだけです」
 体が元に戻れば復活しますよ、と、如月君に答えるクサナギ。随分あっさり答えたあたり、とけこんだのだろう。
 「狙われてるのはねーちゃんなんだよね。オレと涼ちんが一緒よりどっちかが組んだほうがいいんじゃないの」
 カヌちゃんを疑うわけじゃないけど、とつけ加える弟。
 「悪いが俺はこのほうが助かる。呪いのせいで動けなくなるかもしれないからな」
 詳しくは後で話す、と同級生。どうやら色々とあるようだ。
 「無理はしなくていいわよ。そのためにあたしたちが各チームに入るんだから」
 ね、とニッコリ笑うカシスちゃん。確かに、彼女たちのフォローは、非常にありがたいし心強い。
 「質問はいいかな。伽糸粋(カシス)も言ったけど、無理はしないで欲しい。危なくなったらここに戻って来るように」
 と、加阿羅(カーラ)君。妖怪たちが使う移動のジュツですぐに行けると説明した。
 「じゃあゲームスタート。健闘を祈るよ」
 「他人事みたいに言うんじゃねえよ」
 背中に声をかける弟は、いつもの読めない笑顔で口にする彼に投げかける。が、扉の音でかき消されたよう。
 しかし、そうではなかったらしい。
 開けるなりジュツをぶっ放した長男は、彼なりの合図を送ったようでして。
 もうもう、と、保健室にゆっくり入ってくる煙は、静かに部屋の空気を染め上げていった。
 「そうそう。何かあったらおれたちを通して聞いてね~」
 と、手をヒラヒラさせながら出ていった。
 「そういやあカラちゃん、どこ行くんだろ」
 切り替え早っ。
 「散歩じゃないかしら。昼寝してたら引っぱたくわよ」
 「燃やしちまえって。オレが見つけたら凍りづけにしとくからよ」
 末恐ろしいこと言わない、そこ。
 「と、とりあえず、校内を回ればいいんだよね」
 「ええ。物の怪たちは今までどおり倒して、人間には話を聞いて引きこめそうなら引きこむ、って感じ」
 つまり、相手の状況を知るってことかな。よし。
 納得がいかないところもあるけど、何か考えあってのことだろう。
 言われたとおりに保健室から出て、行動を開始するのであった。

 

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