東京異界録 第2章 第26録

 カシスちゃんが取り出したのは、女の子のペンダント。ジジイに破壊されたはずのものが、どうして彼女の手元にあるのだろうか。
 「話が長くなるから、ひとまず逃げましょう」
 「うん、早くしよーよ。このままここにいたら、オレたち犯罪者になっちゃうよ」
 「その辺りはおれたちが操作しておくから大丈夫。とりあえず外に行くとしよう」
 カーラ君は自分の弟に指示を出し、彼のジュツは、水色の光の円を床に描きながら発動する。
 次に目を開けたときには、館の外らしい、少し離れた場所にいた。どうやら、少し高さがあるようで、肌寒い。
 「まずコイツを直さないとな」
 「な、直せるのっ」
 「見ねえとわかんねえよ」
 伽糸粋(カシス)、それ、とクサナギのそばに来た彼は、妹の持つネックレスを要求。手にしたカヌス君は、装飾品と左手にある不気味な血の色をした玉を近づけた。
 すると、玉のほうからネックレスに何かが流れていく。ドライアイスから出て来る煙のようなものは、鮮やかな赤い色をしながら、水晶の部分に吸い込まれていった。
 「うーん、完璧には無理だな。ジジじゃねえと」
 「いえ、ある程度で構いません」
 「で? お前、直ったらどうするつもりなんだ」
 「どうもこうもない。俺たちのところに来てもらう」
 いっせいに声のした方角に視線が注がれると、カグナさんが立っていた。手には何故か、大きなランチボックスを持っている。
 「長年の無理が祟ったんだろう。創り直さない限り直らんぞ」
 ひっ、とクサナギの背中に隠れるように動く女の子。と言っても、彼は木に寄りかかっているので、身を縮こまらせただけだが。
 「心配するな。お前がおかしなことをしなければ問題ない」
 「ほ、ほんとう」
 瞳いっぱいに涙をためて伺う女の子。如月君は、ああ、とぶっきらぼうに返事をした。
 「おや、力を隠していたつもりだが。幼い割に出来る子だ」
 そう話しながら、カグナさんは女の子の所に歩いていく。至近距離まで来ると、ランチボックスを置き、中からサンドイッチを出した。
 「数日間、食べていないだろう。ほら、遠慮しないで」
 目の前にある食材に、女の子の目は奪われたよう。だが、判断がつかなかったらしく、クサナギに助けを求める。
 彼は優しくうなずくと、うれしそうにサンドイッチを食べ始めた。まだあるよ、と言いながら、若いじーさんはカゴをはずす。
 「君たちもどうぞ。お腹が空いただろう」
 「いっただきまーすっ」
 「こらユキッ」
 「いいじゃん。本人が言ったんだから」
 って、気がついたらレジャーシートが敷かれてるし。さっきまでドンパチやってたのがウソみたいだ。
 食い意地の塊である弟は、さっそく食べ始め、如月君すら何かを選んでいる。
 あんたら、もーちょっと緊張感もとうよ、ったく。
 「まあまあ。あたしたちもお茶ぐらいしましょ」
 カシスちゃんまで。
 「ここは桜も見えてちょうどいい。花見もかねて一石二鳥だろう」
 カグナさん、そーゆー問題ですか。
 「それより、ちゃんとネックレスは創れたのか」
 「それが聞いてくれよジジ。こいつすげえヘタクソでさ」
 眉をひそめてカヌス君の左手を覗き込むカグナさん。
 「本当に下手くそだな」
 「うるさい。それでも頑張ったんだ」
 まったくこの親子は、と青スジを立てるカーラ君。
 ん。何か今、妙な単語が聞こえたような気がするけど。
 「ねえ。そのネックレス、本物なんだよね」
 「右手にあるのはな。左手のはニセモンだ」
 「あたしが加濡洲(カヌス)の姿をして戦ってたときに、すり替えたのよ」
 「どういうことなの」
 「君が言ったんだよ。あの子を助けたいって」
 と、長兄。視線の先には、せき込んでいる女の子と、背中を軽く叩きながら見守っている男性の姿があった。
 「それで思いついてね。上手くいけばふたりをこちらに引き込むことも出来る」
 つまり、こういうことらしい。
 妖怪兄妹たちは、まず女の子、明日香ちゃんとクサナギのことを調べた。そして、クサナギの命であるネックレスを盾にされていることをつき止めたのだ。
 しかし、そのまま彼らが奪いに行くのは、今後のことに支障をきたす恐れがあるため、私を通して手に入れる作戦を立てる。そのためには、クサナギの協力も必要で、カヌス君が話をつけにいったらしい。
 そこでジジイの能力や性格などについて聞きだし、自分たちが調べ上げたことと合わせ、クサナギは私の真意を知るために襲撃したという。
 「じゃあ如月君のところには来てなかったの」
 「いや、クサナギの分身が来た。そのときに今回のことを聞いたんだ」
 「相手が相手だからね。おれと雪祥君は駆けつける形をとって、合流したんだよ」
 「そこで追っ払うように見せかけて、館に案内してもらったってワケ」
 た、戦いながらよくそんなことが出来るわね。
 「だったら私にも伝えてくれたって」
 「ん~、君じゃあバレそうだから」
 「お前、嘘つけないだろ」
 「ねーちゃん、すぐ顔にでるじゃん」
 ううっ。三人がかりで言わなくたって。
 「ま、まあ、こうして無事でしたからね。礼を言います」
 ほら主人(マスター)も、とクサナギ。水筒のフタを両手で持ちながら、固まってしまう女の子。足元に置くと、
 「あ、ありがとう、ございました」
 と、小さな声で口にしたのだった。

 

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