自由な色彩 試験開始・風編

 試験は集合場所から見て東西南北にある会場で受け、合格すればスタンプが押される形式になっている。場所により課題は異なるが、中級試験の場合は、風、水、土、火の属性と頭を使ってクリアするものになっているのだ。
 方角別に東に火、西に水、南に風、北に土の試練が設置されているが、受ける順番はとくに決まっていない。スタンプを四つ集めて制限時間内に戻ってこれれば合格となる。
 受験生たちは各方面に散らばっていき、クリスターニャは鳥とともに東へ飛び、ロージャはどこに行ったのか、早すぎてわからなかった。
 そんな中、フィラは南の方角へとむかっていた。彼女は、一番得意としている火属性(ひぞくせい)を最後のまわす作戦をとっているのである。
 時間はまだたっぷりあるので、フィラは抑えながら南方へ飛んでいく。すると、いつのまにかロージャが隣にいたので彼女はひっくり返りそうになった。
 「びび、びっくりした。何してんの」
 「ひっでぇ。ほら、前話してた合格祈願渡そうと思ってさ」
 「あ、そういえばくれるって、じゃない。今アイテムもらったら不正行為に見られるじゃんっ」
 「だから朝渡せなかったんだよ。みんな自分のことで精一杯で見てないから大丈夫だよ」
 「あんたねぇ、それで落ちたらどうしてくれんの」
 「そしたらオレも一緒に落ちるから。それより、ほら」
 そういう問題じゃない、と反論したかったフィラだが、彼のほうが一枚上手だったらしい。ロージャは、彼女の両手をとり無理やり握らせてしまう。
 「んじゃ、オレ北から行くつもりだから。またあとで」
 といい、ロージャはスピードを落としうしろへと下がる。その後、彼は今まで飛んでいた三倍ぐらいの速さで背中を見えなくさせていった。
 米粒ぐらいになるまで放心していたフィラだが、すぐ我に返り急いで遅れた分を取りもどす。
 彼女のポシェットには、薄いピンク色をした五角形のペンダンがしっかりと息づいていた。
 合格証明書を獲得するために、まず風の試験所へとやってきたフィラ。上空からは、切り立っているむき出しの岩肌の横で、すでに他の参加者たちが奮闘しているところがうかがえる。
 その頂上には深紅の布が二、三点うかがえたので、フィラはその近くに着地する。
 「ああ、いらっしゃい。ここは風だけど間違いない」
 「はい、お願いします」
 「よし。それじゃあ説明するからよ~く聞いてちょうだい」
 真っ赤なローブをまとっている監視員のひとりは、初々しさを残した声でフィラに一枚の羊皮紙を見せる。
 「下の様子でわかると思うけど、ゴム製の剣(けん)をかわしながらあそこのスタンプ設置場所まで到達することが試験ね。ここでは何の魔法使ってもかまわないよ」
 「わかりました」
 フィラは、教師のもつ紙と、地上に近い空間を交互に確認しながら答えた。視線の先には、三、四歳ぐらいの大きさの竜巻に左右いくつもつけられている剣がたくさん飛び交っており、挑戦者が汗だくになっている。
 彼女の作戦が決まったのだろうか。五分ぐらいたってからフィラは筆を取りだし、横棒を水平に三本、その右側に上向きの矢印を描く。
 「スピード・アップッ」
 作られた絵から緑色の光があふれだす。光は詠唱者の加護となるべく体にまとい、全身が輝いた直後に消えた。
 体を動かす速度が上がったフィラは、すぐに筆を巨大化させ熱戦へと身を投じる。
 平等に見守られる中、不規則な軌道で動き回る受験者たちは、叩いてくる邪魔ものと自らが生み出す風圧に目を奪われぎみ。頭ではわかっているだろう目的地も、それらの障害のためすんなりとは行けないようだ。
 各々の対処で時間がなくなっていく中、フィラも同じような状態におちいってしまう。
 本来ならばウィンドという風属性(かぜぞくせい)の攻撃魔法で追っ払ってやりたいところだが、あとのことを考えると得策ではないと考えたフィラは、そのままよけることに専念することする。
 「ゴ、ゴムっていっても。当たると痛いじゃん」
 どうにかかわそうとしていても、ここからでは数え切れないほどの量があるため、無傷ではとおれない。周囲も早く抜けようとするが、方向を間違えて逆戻りしている人もいるよう。
 このまま進んでも迷うだけと判断したフィラは、一度上空に向かって発進。初めに訪れたときの位置に戻り、場所を確認する。
 すると、自分も目指しているところとはまったく反対方向にいたことがわかった。
 「うわ~、風で流されたっぽい。正面からは無理そうだなぁ」
 しばらく頭をひねってみる。ふと顔を左側に移すと、先がとがっている太い棒が何重にも積み重なっている風景が飛びこんできた。
 「そっか、崖伝いにいけば迷わないよね」
 監視員から見せてもらった紙には、スタンプ台はちょうど絶壁とは反対側になっていたはず。遠回りになるけど、崖に沿って途切れ目に行って、そこから定められた範囲内で行動すれば失格にはならないし。
 こう思ったフィラは、効果がきれてしまったスピード・アップの魔法をもう一本の筆で再度かける。また同じように動けるようになった彼女は、土のかたまりに見えなくもないところへと突進していく。
 ぶつかる間際で止まった彼女は、会場のカド部分だろうところにいる監視員をみつけすぐさま行動。赤いローブを着ている人物を驚かせながらもとおりすぎていく。
 いたずらに動き回っている風を地面と平行な姿勢でかわしながら、先ほどと似た景色が飛び込んでくる。赤ワイン色の教師にぶつからないように曲がると、スタンプ設置所を発見した。
 その場にいるふたつのローブが左側に波打つと、フィラに近いほうが両手を広げて、
 「ふわ、こっちからやってきたか。よく見抜いたな」
 「あのねぇ。ああ、ごめんなさい。スタンプ台紙もらえますか」
 「え、あ、はい」
 少々とまどいながらも言われたとおりにする。説明された監視員より若い声だったので、面を食らっているのだろうか。
 「ああ、スタンプに関しては最上級生の教師希望者が押すことになってんだよ」
 「そ、そうなんですか」
 「そうそう。ほら、問題作らなきゃいけないから勉強にってね」
 「んもう、必要以上に話してるとまた怒られるでしょっ。ええっと、おめでとう。風の試験はこれで終わりよ」
 声からも女の人であろう人物は、試験がんばってね、とエールを送る。フィラは台紙とともに、ありがとうございます、と頭を下げた。
 もらった紙を大事にしまい、筆を巨大化させるフィラ。再度お礼をしようと視線をむけた先には、小さな赤い人が大きな赤い人を逆の色にしている場面だった。

 

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