自由な色彩 試験開始・土編

 太陽が中央を少しすぎたとき、フィラは遅めの昼食をとっていた。低速で飛びながら、器用にもひざの上に小さめでかわいらしい薄ピンクのトレーを置き、パンと果物、そしてジュースが入ったビンが並べられている。
 彼女は日の光を放つ炎を見ながら、
 「んー、計算どおりかな。これなら夕方までには帰れそう」
 制限時間は夕暮れになるとき。その時間帯までにスタート地点に戻らなければならない。
 しかし、フィラの作戦だと何とか間に合うようだ。というのも、今回の場合、一番おいしいところは最後に食べるかららしい。
 北方にむかいながら、フィラは次なる試験場を探していた。
 「土属性(どぞくせい)だからたぶん地面むきだしだと思うんだけど、見えにくいなぁ」
 高度も普段と変わらないのだが、微妙に黒ずんでいるけむりが視界を悪くしている。空気を読まない邪魔者は、彼女からみて右側からやってきているようだ。
 「まさかとは思うけど、噴火しないよね」
 水分を含んだ障害の先には、それと同色の山がぼんやりと浮かんでいる。そちらは専門外だが、噂すら聞いたことがない。
 「気にしてもしょうがないや。試験に集中しなきゃ」
 一番短い指以外で軽くほおを叩いて気合を入れなおし、フィラはひざの上を片付け昇級の道に力を注ぐ。
 それからさらに高度を下げ、針のような葉をつける木の上をすれすれに飛ぶ。粘り強く筆に乗っていると、突然緑色の群集がとぎれてしまった。
 その先には、こげ茶色と一部が白い風景が広がっていたのだ。
 しかし、フィラは目の前の光景に言葉を失ってしまってしまう。もちろん土地柄ではなく、その上にいる受験生と謎の生き物の格闘シーンで、である。
 「ねぇー、そこにいたら危ないわよーっ」
 と、北東から声がする。何気なく下を見てみると、まるで巨大アリを待っているかのような穴があいているではないか。
 フィラはすぐさま動きだし、声のした方角へといく。
 そこには、白いローブを身につけた監視員が腕をふっていた。
 「ふう、よかったわ。よく注意して飛ばなきゃダメよ」
 「は、はい、すみません」
 「んま、それは置いておいて。ここは土のスタンプだけど大丈夫かしら」
 「はい、お願いします」
 「じゃあ説明するわね」
 軽く足元がゆれたと思いきや、フィラの三倍の高さはあろう何かがでてくる。謎の物体は固まってしまったつちくれを首ふりで落とすと左右を確認し、また地面へともぐっていってしまう。
 「すごく単純にいうとね、あのモグラをぶん殴るだけでいいのよ」
 「えっ」
 「頭じゃなくても大丈夫。体の横でも爪でも、当たればこのハンマーが光ってくれるわ。単に硬いものが当たってもそうなっちゃうから、気をつけて。作動したら確認するから持ってきてね」
 「は、はぁ」
 微妙にとぼけたような口調だが、監視員は話しながら必要なものをだす。木でできた柄に、硬貨を横にしたような形をしている叩く部分。柄の部分以外は波がうっていて、押すと奥にはいってまた戻ってくるという、不思議なものだ。
 「殴る部分は空気が入ってるからあんまり痛くないけど。モグラ以外は叩かないようにね」
 「わ、わかりました」
 「そうそう、ここでは一切の魔法は使用禁止よ。使っていいのは白旗が立っているところのアイテムだけ。大丈夫かしら?」
 「はい。えっと、筆は」
 「それは持ってていいわ。ただし、絶対使っちゃダメよ」
 「わかりました。では、いってきます」
 「がんばってね」
 中に鈴がはいっているのか、動かすたびに音がなるハンマー。フィラは、背中から声援を送ってもらっていたが、少し顔をしかめてしまった。
 とりあえず試験、と軸にスイッチをきりかえたフィラは、様子をうかがうべく全体を見渡せる場所を探す。すると、ちょうど真ん中辺りだろうか、手が加わっているような丘を発見。やわらかい足場にはまらないようにしながら歩いていく。
 その途中、先ほどのモグラが穴のいたるところで頭をだしては引っこめるを繰り返している。ほかの受験者たちも、それぞれの対応に追われてしまっているようだ。
 しかもこのモグラは頭がよいらしく、穴のそばに誰かがいると、そこからは身を現さないらしい。
 「もしかしたら、頭しぼってどれだけ戦えるかっていうのを見てるのかな」
 たしかにマジシャンはマジック・パワーが切れれば戦えないもんなぁ。
 こう思い、フィラは何となく試験の意味を見つけていた。
 やる気が上がったところで、彼女は足早に丘の上を目指す。問題もなくたどり着くと、同じ立場の人とモグラの様子を観察できるよう、できるだけ視野を広げる。
 からっ風が何度もふき、フィラの茶色い髪がほこりまみれになってもなお動くことはない。ときおり腕をさすって体温を上げるも、休息をとることもしなかった。
 そのおかげで少しずつ、わかってきたことがあった。あのモグラは、どうやら一定のリズムで出入りをしているようなのである。
 どこを始めとしているかはわからないが、あるひとつの点から次に出現するところは、対角線の位置にある穴だというのがわかった。
 「うう、一番近くの穴にでてくるのは、今度」
 鼻をすすりながら、鈍ってしまった頭で計算。完全に数値化できないが、日常生活の中できたえた感覚でうめていく。
 その結果、大体十分後にフィラからみて左側にある穴からでてくるだろうと推測。
 フィラは使える範囲内で体を動かす。全身に勢いが増し、少しだけ温かくなる。準備が整ったところで目的の穴へ走りだした。
 彼女の読みが当たり、ついたとほぼ同時に盛り上がる土。モグラはハンマーが迫っていることに気づかず、流れのままに殴られてしまった。
 中にはっている鈴が鐘へと変化したようなたけだけしい音がなり、ハンマーも本物の黄金に変わったかのように輝きだす。
 思わず見開いてしまったフィラは、もはや音色をかなでないハンマーを頭の上でふってしまう。殴りものを胸の高さに持っていったとき、ようやく誇らしげに持ち主をたたえてくれていたことに気がついた。
 近くの監視員にみてもらおうと、アイテム支給場所を探す。余裕で歩いていけるところにあるその場には、きたときと同じ動作をしている雪色のローブ姿があった。
 「お疲れさん。とりあえずこれ飲んであったまってよ」
 入れたてのレモンティーをすすめられ、借りた道具を渡す。フィラがお茶を楽しみながらたき火で温まっていると、ひとりの監視員が声をかけた。
 「おめでとう。スタンプ台紙もらえるかい」
 「ば、あい。ごれです」
 「ありゃりゃ、相当冷えちゃってるね。余裕があるならここで休んでいきなよ」
 と、見た目女の人だろう監視員が、今度はお菓子でもてなしてくれ、体形を意識することなく食べはじめてしまう。ふと戻ったときには、半分以上口に運んでしまっていた。
 「あっはっはっ、いい食いっぷり。まだあるから全部どうぞ」
 「女の子にいい食べっぷりはないでしょ」
 「ず、ずみません」
 急にはずかしくなり、ちぢこまってしまうフィラ。心身が逆に動くというのは、はたからみても楽しいものなのかもしれない。
 十分に動けるほど回復したフィラは、忘れ物がないかチェックし、その場で働いている人たちにお礼をいう。
 お茶菓子やたき火以上に温かな後押しをもらった彼女は、筆を普段どおりに起動させ飛びだつ。
 高度を調節している途中、下から、誤作動だからもう一回叩いてきてくれ、という恐ろしい声が聞こえた。

 

全体一覧へ

 

<メルマガ>
人を動かす文章術
文章について、日頃考えていることを発信しています

最新作速達便
新作品をいち早くお届けします。

<Facebookページ>
個人ページ お気軽に申請してください♪

電子書籍とPodcastのすゝめ

望月 葵の総合情報発信現場

<Podcast>
ライトノベル作家・望月 葵が伝える、人をひきつけ動かす文章の力
東京異界録(ライトノベル系物語)

<電子書籍>
各作品についてはこちら

コメントする

Please Login to Comment.

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

error: Content is protected !!