自由な色彩 エピローグ編

 ナルニムが起こした事件は、瞬く間に全世界へと広がった。身につけた力は邪法といわれる法律でも禁じられたものであったこと、外見とは裏腹な人物であったこと、当主であった叔父と義理叔母を毒殺し、後継者である息子をもそうしようとしたことなど。数々の悪事が明るみにされいくにつれ、不可解な事件の再調査も行なわれているという。
 そんな中、巻きこまれてしまったフィラは、教員たちの計らいにより森で暮らしている。場所は、入るとでられないとされている、通称・迷いの森。好奇の目から遠ざけるのにうってつけの場所だ。
 ちなみに、クリスターニャの住まいでもある。
 フィラは今までの人生をふりかえりながら、浮かんでくることを考える日々を送っていた。
 幼なじみであるロージャは、たしか七歳のとき、家に嫌気がさしたと家出している。彼のご両親が亡くなったのもそのときだった。
 有名なマジシャン夫婦の不可解な死に不審を抱いた人間は少なくなかったようで、暗殺説まで浮上したという。まだ幼かったフィラにはよくわからない事柄だったが、当時家主となったナルニムにもみ消されたのだろう。彼女はそのとき十八であったので、すでに悪い欲望の化身とかしていたのか。
 いつしか迷いの森の近くに住みはじめたロージャは、いったいどのようにして暮らしていたんだろう。聞くことはできないが、もし昔から精霊たちの声が聞けたのなら生きる手段を教えてもらっていたのかもしれない。そして身を守るために知識や魔法を図書館にある本で独学したのだろうか。
 一件が終わったあと、彼はすでに全種類の魔法を使えるといっていた。あのような環境の中、いったいどのような想いでいたんだろう。
 友達のクリスターニャ。彼女は会ったとき、両親を知らないといっていた。そのときは10歳だったが、ひどいことを言ってしまったことを覚えている。もちろん悪気はなかったのだが。
 周囲からはなぜか動植物の言葉がわかるので、気味悪がれ迫害に近い仕打ちもうけていた。だからといって、クリスターニャ自身を気持ち悪いとは思わなかった。むしろうらやましい、と心にないことも口にしている。
 しかし、彼女にとって、はっきりと内心を明かす私が好きだと言ってくれた。それからずっと仲よくしてくれている。
 フレイムウルフはおろか、フレイムホースなどの聖獣とも心を通わせられるクリスターニャ。人間に対してどんな感情を持ちあわせていたんだろう。
 劣等感を感じはするものの、ふたりは私の友達だ。なのに私は何をしてあげられたんだろう。きっと何もしてあげられてない。いつも助けてもらってるだけだ。
 彼らの生い立ちと能力、そして、気持ち。どれをとっても次元が違く感じ、フィラの頭は爆発しそうになる。
 そんなフィラの頭を、甘い香りがただようかごが直撃した。
 「またふさぎこんでるーっ」
 「あ、クリスターニャ」
 「んもー。何考えてたのかしらないけどー、フィラは考えすぎなんじゃない」
 「え、そ、そうかな」
 「そーだよー。わたしたちのことにしたってフィラは何も悪くないんだしー」
 その言葉に、フィラは肩をびくつかせる。彼女の様子を見たクリスターニャは、やれやれ、といった具合に、
 「やっぱりそうだったんだー。フィラって素直だからすぐ顔にでるんだもーん」
 「あ、ごめん。その」
 「謝らないでよ。責めてるんじゃないんだからー」
 と、話しながら持ってきたリンゴをふくクリスターニャ。彼女は慣れた手つきでいじり、フィラにさしだす。
 「ロージャのほうは知らないけどー。わたしはまわりの人たちと変わらず接してくれたことが嬉しかった。だからフィラが大好きなのー」
 きっとあっちもそうだよー、と続けるクリスターニャ。だが、フィラにとっては不穏なこともいう。
 「まー、ある意味敵だけどね~」
 「ちょっ。えっ」
 「あははは。ある意味、だよー。信頼おける同志であり敵であり~」
 「いや、言ってる意味わかんないんだけどっ」
 「大丈夫だよー。むしろそっちのほうが面白い~」
 何が誘ったのか大笑いするクリスターニャ。フィラは意図がわからず、頭を抱えてしまう。
 再び雰囲気を変えたのは、マイペース人のほうだった。
 「そういえばロージャ、一気に教師免許受けるんだってー」
 「そうなのっ」
 「うん。力はまったく問題ないし、本人が説得したらしいよー」
 「あのサボり魔がねえ。いきなりどうしたんだろ」
 「心境の変化じゃないのー」
 怪しい笑みを浮かべるクリスターニャ。フィラには伝わっていない様子だ。
 「でも驚いた。本当はロージャが希なるマジシャンだったなんて」
 「そうなんだー。わたしはうすうす気がついてたけど」
 「え、ウソッ」
 「ホントー。ちなみにナルニムの本性も何となくねー」
 実力があれば試験自体は受けることができるこの世界だが、さすがに中級から教師免許となると異例中の異例。歴史からも、そのような人物ははじめてのことだという。
 「先生たちも驚いてたしねー。周囲も見る目変わっちゃってさ、うっとうしいって言ってた」
 「その辺は相変わらずなんだね、もう。あ、クリスターニャ、時間大丈夫」
 「今日はいかなーい。フィラが心配なんだもん」
 口をしぼめ空を見るクリスターニャ。たしかに学校は行かなくても、試験に合格すれば級は上がりはする。
 「んまーわたしのことはいいからさー。ほら、あっちで動物たちと遊んできたらー」
 友人が指さした方向をみると、リスやクマ、それに鳥たちがこちらに視線を送っている。中には、フレイムウルフまで加わっていた。
 「みんなフィラのこと気にいっちゃったみたいでさー」
フィラは顔に生気を少し戻し、お礼をいった。
 ショックから立ち直れないでいるのだろうか、フィラはまだ青い顔のまま輪の中にはいる。じゃれ始めた動物たちの様子をみると、クリスターニャは小屋のあるほうへと歩いていった。
 数10分ほどたち、フィラの顔に温かな色が戻ってくる。同時に、もうひとりの命の恩人ともいえる人物も戻ってきた。
 彼は、親戚のせいで閉ざされかかった心に花を送る。
 「オレんところに咲いてたからあげるよ」
 「あ、お帰り。ありがとう」
 いつもどおりに返事をもらったロージャは、そのままフィラの隣に座る。いつのまにか静かになっていた周囲には、神聖なる獣すら近づくことができないらしい。
 「どう、体調」
 「うん平気。ちゃんと食べてるし」
 「ならいいんだけど、さ」
 「ロージャは。なんか大変みたいだけど」
 「オレのことはいいって、いつもどおりだし。大変なのは周りだよ」
 「そ、そうなんだ」
 「あ、そうだ。これも」
 差しだされた包みの中身は、新しい羽ペンとインクに普段使われる紙、それに祖父母と両親、弟たちと師事している先生たちからの手紙だった。
 思った以上の具だくさんに、受け取った本人の目が点になってしまう。
 「ミラーなんて泣きじゃくってたらしいよ。『おねえちゃんがいないのヤダーッ』って」
 「ぷっ、何気に似てる。想像つくなぁ、まだちっちゃいから」
 一番下の妹はまだ六歳。まだまだ甘えたいざかりの年頃だ。一応もうひとりの弟に任せてあるが、さすがに男と女では違うだろう。
 「オレが訪ねたときはいなかったけど。あと、おばさんがよろしくだって」
 「ごめん、ロージャ」
 「はっ。い、いきなり何」
 プレゼントを受けとって喜んでいたはずのフィラが、突然落ちこんでしまう。急に感傷ひたってしまったことに驚き、ロージャは困惑してしまった。
 「私、無神経だった。忠告も聞かなかったし、その」
 「フィラは何も悪くないだろ。知らなかったんだから」
 「でも」
 いったん、話が途切れる。しばらくの沈黙のあと、
 「オレとナルニムとはだいぶ歳がはなれてるけどさ。あの人も気の毒なんだよ」
 ロージャは、今まで周囲には知られていない事実を話し始めた。
 ナルニムは実は、血族の中でもかなり力が弱く、一族の恥だといわれ続けていたらしい。そこにロージャが生まれ、存在しないと同様な仕打ちだったとか。
 「赤ん坊の記憶なんてないけどさ。精霊たちに聞いたら、そういう過去があったんだって」
 フィラの脳裏に、あの言葉と悲しい声がよみがえった。本当に、どのような想いで生きてきたんだろう、と彼女は思う。
 自らを守るために血に染まってしまった、元憧れの人。ロージャのひと言で力が緩んだあのとき、本当は誰かに助けてもらいたかったんじゃないのだろうか、と、今ならそう思える。
 「ったく。ズルいよな、もう。お前は昔からそうだった」
 唐突の言葉に、フィラの頭の上に疑問符が浮かぶ。答えを見つけようと彼の顔を見るが、何故か相手の顔がほてっていた。
 かいたところの髪形をなおし、金色の目と茶色い瞳がであう。
 間をおいたあと、光り輝く虹彩が、少しずつ、確めるように近づいて。
 「ごはん、できたよー」
 「うわぁっ」
 「ククク、クリスターニャ、いつの間にっ」
 ふたりの間にちょこんと座りこみ、ささやきを大きくさせるような手の位置で笑っているクリスターニャ。せっかくのチャンスを台無しにされてしまったロージャは、
 「おまっ、空気ぐらい読めよバカッ」
 「んー。読んだからきたんでしょー」
 「ちょ、ちょっとふたりとも」
 まるで炎対黒い炎になってしまうふたり。フィラにも見たれた光景だが、ロージャとクリスターニャという組みあわせからか、いつもヒヤヒヤしているようだ。
 「まー、冷めないうちにねー。あ、ロージャの分ないよー」
 「あー、はいはい。わかったわかった」
 怒りと呆れがまざった表情になるロージャ。邪魔そうに相手を犬扱いし、手のこうで追い払う。
 そんな様子にクリスターニャは手のひらで返し、フィラは最後にある嘘にため息で答えた。
 来た道を戻っていったクリスターニャの背中が見えなくなると、半ば感心したように、
 「すげぇなあの野生児。さすがは生粋のアニマリティ」
 「野生児って。どうなっても知らないよ」
 「フィラに助けてもらうからいいや」
 「あんたねぇ」
 いつもの軽口になった少年に、ありのままの少女になるフィラ。ロージャは、まーいいか、とつぶやき、笑顔の似合う彼女のうしろをついていく。

 

 空のように澄んだ心に想いが届くのは、まだ先のことなのかもしれない。

 

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