瞳の先にあるもの 第4話

 時刻はちょうど子供がおやつをほしがる時間帯のこと。とある部屋に青いよろいを着た兵士がやってくる。白を基調とした品格のある部屋は、ひと仕事終えた主を優しく包み込んだ。
 慣れない手つきでかぶとを外し、ふう、と空気を漏らす青年。胸部のよろいの外そうにも、ひとりでは難しいため、そのままの状態だ。
 「手伝ってやろうか、はずすの」
 机の上にある書類に目を通そうとした瞬間にかけられた声。数分前まで独りだった空間に軽い静電気が走る。
 「君か」
 目深いフードをかぶった者を見ることなく答う青年。ゆっくりと立ち上がり、お願いできるかい、と話した。
 大げさに両手を広げた侵入者は、部屋の隅からゆっくりと近づいていく。
 「どーよ、あのふたりは。使えそうなのか」
 「男のほうは問題ないだろうけどね。彼女はどうだろう」
 「あのアードルフ・シスカだからな」
 カチャカチャと音をたて役目を終えるよろい。青年は左肩に逆側の手を置き、まわし始める。
 「いいさ、かわいいし」
 「そーゆー問題かよ」
 「まあね。女性がいたほうが華やいでいいだろう」
 君はまだ子供だからわからないかな、と、茶化す青年。手伝った客人は、けっ、と返した。
 「で。何をしに来たのかな」
 「コラレダ側に連れ去られそうだから、教えにきてやったんだよ」
 「何だって、いつの話だ」
 「ついさっきさ。あのおっさんが反応できなかったみたいだぜ」
 「ふう、ん」
 「っつっても、相手も相手だ。ほらよ」
 渦巻状になった紙を二枚、放り投げる情報屋。疑問に思いながらも、青年は紐を解く。
 ひと通り読んだ彼は、目の前にいる身体は小さい者に、
 「随分と気が利くじゃないか。何か欲しいものでもあるのかい」
 「べっつにー。それはサービスだよ」
 しいていえば金がほしいけどねっ、と舌を出しながら答える。
 「腕のミセドコロって感じしない」
 「ふむ、確かに」
 「だろ。だから教えてやったんだよ」
 「それはありがたい話だ」
 不敵に笑う青年。向こうは幼いとはいえ、情報に関しては超一流の腕を持っている。質は信用しているが、いかんせん職業が職業。警戒は怠らない。
 「君は、一体何が目的なのかな。この国とコラレダと戦わせて、何の利がある」
 「おいおい、お疲れなんじゃない。オレにそれを聞くのかよ」
 やはり無駄か、と頭の中でいう青年。情報屋の仕事が秘密主義なのは当然知っているが、何せ相手は名前すら名乗らない。普通は偽名でも伝えるのが筋なのだが、それすらしないのだ。
 まるで、同業者からも身を隠しているように。
 もちろん、何かしらの意図があることぐらい青年にもわかっているし、かといってここにいる者ほど優秀な情報屋もいない。どんな困難なネタも、高額な金さえ払えば調べてくるのだ。
 当然コラレダも知っているだろう。それに、大国なら大金が手に入るし、商売がしやすい。
 しかし、この情報屋は何故か不利な立場のアンブローにも情報を流している。金銭だけが目的ではないことぐらい、察しはついているのだが。
 少なくとも、アマンダ・ライティアに関わることは確かなよう。今までこの子が率先して調べてくるなど、今回が初めてだからだ。
 ならば、彼女を手元においておけば、少なくとも敵にはならないだろう。
 青年は瞬時に脳を回転させ、腹を探ろうとする。
 「魔法を使う情報屋なんて珍しいから、有名なんじゃないかって思ったけど」
 「何探ってんの」
 「仲良くしたいだけさ。仕事でもプライベートでも、ね」
 「うわ~、後半うさんくせー」
 「傷つくなぁ」
 まったくそう思っていないような口調でいう青年。軽口を叩ける仲だが、相手の目的がわからない限り、今のところこちら側に引き込むことは難しいと判断した。
 「ちなみに、何をどこまで知っているのかな」
 「全部っていっとくよ。あんたのことも知ってるし、他も調べりゃわかるし」
 「ほ、う」
 「安心しな。情報屋は口がカタいだろ」
 「そうしてもらえるとありがたい」
 情報に関しては敵国と拮抗している様子。なら、次の一手も決まったも同然だ。
 「君に調べてもらいたいことがある」
 「何をだよ」
 「魔法の国のことだ。ライティア家との関係を知りたい」
 「そんなことか。知ってるから教えてやる」
 難攻不落の天然要塞、といえば聞こえはいいが、それにも理由がある。だが、彼が知りたいのは口伝ではなく、現在の事実関係だ。
 相手が魔法を使ってくる以上、コチラも対抗手段を考えなければならない。目には目をの原理を使えばよいのである。
 とはいえ、どの国にも属さない独立したあの国が協力するとも思えない。本来なら突然手に入れた力の経緯を調べたほうが早いのだろうが、そんなことを言っている暇はない。
 「つまり、彼女の一族と土地にだけ、魔法の加護があると」
 「そういうこった。伝説のとおりだから、あの女を使って国にどーこーってのはムズかしいんじゃねーの」
 「ふむ。それで」
 口が悪い情報屋に話をうながす青年。言いかたに引っかかったのだ。
 「センリャクってのは知らねーけど、ひとりだけ動くかもしんない奴は知ってる」
 青年の目が鋭くなる。
 「あとでまとめて送ってやるよ」
 「ありがとう。随分サービスしてくれて」
 「上乗せに決まってんだろ」
 「はいはい」
 じゃあな、と口にし、消える情報屋。また独りになった青年は、背中を椅子に預ける。
 たったニ、三年で巨大国家となったコラレダ。原因は魔法の力を軍に入れたことである。
 魔法の国以外の人間は、王家の人間だけが魔法を使うことができていた。それは王族である証でもあり、戦争になる前は身分を証明する手段のひとつだけの産物だった。
 しかし、欲の権化となった現コラレダ国王は、二十年近く前に世界統一に乗りだしたのである。
 最初は各国とも抵抗をしていたが、徐々に押されていき、今ではアンブロー王国以外の国はすべてコラレダのものとなっている。
 「気持ちはわからなくないが、愚かなことだな」
 苦しむのは、いつも力のない民たち。彼らを保護しながら戦うのも、限界に近づいてきている。
 かといってこのままあの男を放置しては、アンブローを含めた三ヶ国は属国になってしまう。
 各国からの融資が途絶えている今、自国だけで国難を脱しなければならないのだ。
 青いよろいが小さな泣き声をあげると、机に乗っていた書類と手にしていた書類を並べる。四枚の紙は特定の人物の詳細が書かれていて、ひとりはアマンダ・ライティア、ひとりはアードルフ・シスカだった。
 他のふたりのうち片方は小耳に挟んだことがあるような気がした青年は、要注意人物リストを取りだし、指を滑らせる。
 あるところで動きが止まると、その手は頭に移動した。
 「直接送り込んできたか。アードルフでも対処できなかったのもうなずける」
 重なっている紙の辺にある文字は、暗殺部隊隊長とあった。
 もう一度リストを読むが、もうひとりの名前は出てこなかった。とはいえ、ついている人間もそれなりの力を持つ者だろう。もしかしたら、手元にはない書類に記載されているのかもしれない。
 だが、この隊は誘拐や拉致も兼任している。コラレダにとっても重要人物と思われるアマンダを死なせることはないだろう。
 同じ情報を知っているのなら、の話だが。
 そうは言っても相手も馬鹿ではない。あの情報力を欲しているはずだ。情報屋の子供が完全にコラレダにつけば、アンブローは確実に負ける。
 情報操作されれば、勝ち目などないからだ。
 もちろん、逆のことも言える。様々な情報さえ握っていれば、小国が大国に勝つこともありえるのだ。
 「さて。何から手をつける、か」
 考えをまとめようとしたところに、ノック音が響く。入れ、と許可をすると、仕立てのよい服をまとった青年が姿を現す。
 「入るぞ、って」
 「ああ、エスコ。悪いな、兵のよろいを借りたよ」
 あ、あ~そう、と、場の空気にふさわしくない口調のエスコという男性。童顔をさらに幼くさせる笑顔は、彼の緊張を溶かすのに十分だったようだ。
 「よろいは別にいいんだけど。どうしたんだ」
 「王子不在の今、どうすべきかと思ってね」
 同じ立場らしいエスコに事のてん末を伝える。主にアマンダ関係のことだ。
 緩んでいたエスコの表情は、見る見るうちに大人の顔つきに変わっていく。
 「万が一、ということは」
 「それはない。タトゥもアマンダを欲しがっているだろう」
 「ならいいけど。僕が直接行こうか」
 「いや、君はここに残ってもらいたい。彼女に伝えてくれ、あの館にいる」
 「わかった。その間はどうするつもり」
 「そうだな」
 アマンダとアードルフは傭兵に志願するためにこの町にやってきた。使うならそこか、と青年。彼はこれからの予測をし伝えると、
 「私の顔は見られていない。上手く言って彼女たちの傍にいてくれ」
 「わかった」
 「あまり仰々しくしないように」
 「了解」
 友人に手を振るかのように動かすエスコ。準備に取り掛かるのだろう。
 「彼女のことはこれ大丈夫だな。あとは」
 青年はアンブロー王国を再起させるための策を考え始める。この国で生まれ育った彼には、アンブローそのものが無くなってしまうのは、死と同然だからだろうか。
 彼が机にかじりついている一方で、周囲の森林に身を隠している情報屋は、のんびりと風景を眺めていた。その先には、先ほどまでいた部屋の窓が映っている。
 「ゴクローなこった。どうでもいいけどよ」
 木の上で書類をまとめていたらしく、傍にいくつか束ねられた羊皮紙が袋に入って吊り下げられていた。
 「ヘイノ・フウリラ、タトゥ・コラレダ、アマンダ・ライティアにそのとりまき、か」
 しばらく様子を見たほうがいいな、と情報屋。頭上から鳥の鳴き声が、静かに聞こえてくる。
 「さあヘイノ、どうでる」
 ニヤニヤした口元で、不吉なことを予言する子供。フードに隠された瞳は暗く、明るい未来は映し出されていないよう。
 光のない目は、いったい何を見ているのだろうか。
 「今はアンブローを有利にしてやるのがいいかなぁ。このまま終わっちまうのもつまらねーし、意味ねーし」
 バサッ、と羽の音。
 「っと、やべ」
 急いで荷物を片づけ、木々の間を飛び回る。数分後、情報屋がいた場所には、がたいのよい男がやってきた。
 「へぇ。神サマってのは相当おせっかいみたいだな」
 思わずフードから漏れた声は、先ほどの場所に向けられる。
 「オレをガッカリさせないでくれよな。アマンダ・ライティアさんよ」
 そう言いながら指で印を結び、身体を浮かせ、気配を消す。
 情報屋は来たところを戻り、話し声が聞こえる距離まで近づいた。

 

 

 

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