東京異界録 第3章 第8録

 「あれ、カシスちゃん。いつもの薙刀じゃないんだね」
 「この狭い場所での長物は動きづらいのよ」
 時と場合によって武器を変えてるわ、と彼女。戦鎚を見、ふうん、と目をぱちぱちさせながらも、雪祥(ゆきひろ)は感心していた。
 「まさか教師の能力者がいるとはな。よほどのことらしいですね」
 「何の事かな」
 「さあ。お互い、何が狙いなんでしょうね」
 「全くだ。他校生までいるなんて、どうなっているのやら」
 再び、ぱちぱち、と大きな瞳を湿らせる雪祥(ゆきひろ)。そのまま伽糸粋(カシス)を見ると、彼女は首を横に振った。余計なことを言わないほうがよい、と、彼は悟る。
 狙いは姉、でもどうして狙われるんだろう、と、雪祥(ゆきひろ)は思った。
 その理由を知っているのは、おそらく伽糸粋(カシス)と相手のみ。何となく蚊帳の外に感じながらも、理由があるのだと今まで言い聞かせて来たが。
 「雪祥(ゆきひろ)君、今は戦いに集中して」
 「そ、そうだね」
 改めて視線を仲間に移すと、まだこう着状態が続いていた。
 「役目があるとはいえ、仮にも教師。出来れば生徒とは戦いたくないんだが」
 「なら同じ能力者として接すればいいでしょう。そちらのほうがお互い好都合だと思いますが」
 ドジでも歳上、それなりの口調になるのは性格ゆえなのだろう。妖怪たちにはタメ口だったが、その辺りの感覚が人とは違うことを理解しているのかもしれない。
 ボーイッシュの女性は、ふっ、と口もとをゆるませると、涼太の意見に賛成。上下関係が無くなり、単に実力勝負の世界に入っていく。
 先に仕掛けたのは女性のほうだった。得物は持たず、そのまま先頭にいる涼太に突っ込んで来たのだ。
 馬鹿が、と思った彼は、カウンターの構えをし、懐に来るのを待つ。
 しかし考えははずれ、彼の長身を飛び越えると、雪祥(ゆきひろ)の前に降り立ったではないか。
 「藜御雪祥(あかざみゆきひろ)君だな。一緒に来てもらおう」
 「ヤ、で、す」
 本能的に拒絶した本人は、同時に脇差を横に振り、理性も働かせた。なぜ自分が狙われているのか知りたかったのだ。
 おそらく、弟だから、だろう。見た目はクールで近寄りがたい姉は、本当はとても優しい心の持ち主。うわべだけの付き合いだと気づかれないかもしれないが、そういう性質を持っているのだ。
 雪祥(ゆきひろ)は相手の攻撃を受け流しつつ距離をとる。すかさず彼女の背面から涼太の拳がうなるが、忍者は彼らが見たこともない動きでかわした。突然姿が見えなくなったのだ。
 「ど、どこいったんだ」
 「くそ。気配だけじゃなく霊力も消せるのか」
 視線を泳がせる二人と違い、伽糸粋(カシス)は無言。戦鎚を持ったまま、微動だにしなかった。
 「あたしに反流(はんる)は効かないわよ」
 彼女の背中から、突如火柱が巻き起こる。回り込んで抑えようとしたのだろう女性は、自身についた炎を床に転がりながら消火する。
 「あちちち。君、人間じゃなかったのか」
 「まあね。人間と一緒にいる妖怪なんて、限られてるじゃない」
 ま、まさか、と言いながら、女性は首を伸ばす。一瞬だけ表情が凍りついたが、すぐに氷解する。
 「成程、関係者には君達兄妹の守護がついている、か」
 何か考え込んでいる相手だが、伽糸粋(カシス)は隙だらけの彼女を見ているだけ。人間組が攻撃しようにも、戦鎚(せんつい)を横に構え、彼らを抑えている。
 「ふっ。ここは見逃してもらえるようだ。ご厚意に感謝するよ」
 そう言うと、ボーイッシュの女性は姿を消した。
 「伽糸粋(カシス)、どうして畳みかけなかったんだ」
 「加阿羅(カーラ)の作戦なのよ。なるべく戦闘を減らすようにって」
 長女は語る。彼女たちの名は、妖怪世界では有名で、よほどの馬鹿でない限り手を出さない、と。つまり、怨鬼(おんき)のような血肉を欲するだけで動く物の怪を除き、襲われることがないのだ。
 「相手は少なからずあたしたちのことを知ってるから、利用したのね」
 「ほえー。カラちゃん、すっげ~」
 目をキラキラさせながら口にする雪祥(ゆきひろ)。一方、涼太は腕を組み、疑問をぶつける。
 「ということは、だ。ハナっから大物をつり上げるつもりでチーム分けしたのか」
 「さすがね。あるいはまとまって来るかのどちらかよ。どちらにしてもあの人たちを引きずりだすためなの」
 「あの人たちって」
 率直な返事に、伽糸粋(カシス)は目を伏せる。そしてまつげを動かすと、
 「前に要(かなめ)の話をしたわよね。三人のうち誰かを引っぱりだせるかもしれないのよ」
 「藜御(あかざみ)やあの子を使って、か」
 コクン、とうなずく伽糸粋(カシス)。どういう意味で、という雪祥(ゆきひろ)の問いには首を振った。
 「まだ詳しくは話せないわ。今日のことが終わったら、話せると思う」
 雪祥(ゆきひろ)は腰に手を当て、首をかしげる。
 「ずーっとそう言われてるけどさ。いつになったら核心を教えてくれるのさ」
 「あなたが大人になったらよ。今年で十五だし、もう大丈夫じゃないかしら」
 「は、はあ?」
 雪祥(ゆきひろ)は思わず涼太を見る。彼は、俺に言われても、という表情をした。
 「まあいいや。校内を回ってればいいんだよね」
 「ええ」
 「そ。あ~、ねーちゃん、大丈夫かなあ。心配になってきた」
 過保護気味な弟の言葉は、チームにちょっとした笑いの渦をつくったのだった。

 

 

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