東京異界録 第3章 第21録

 謎の光で助かった雪祥(ゆきひろ)は、自身に何が起こったのか理解できず、一瞬放心状態に陥る。だが、すぐに目標を思い出し、脇差を構えた。
 一方、子供は異形を見るような目で睨んでいる。
 「お前、いったい何者だ」
 「それはこっちのセリフなんだけど」
 「いかに拠り代の肉親とはいえ、霊力のないお前が術を使えるはずがない」
 急に大人びた口調になった子供は、羽を動かし、上空に舞う。姿はそのままに、目の周囲だけが成長しているかのような印象だ。
 しまった、空を飛ばれちゃあ何にもできないじゃんか。
 そう思いながら見上げる雪祥(ゆきひろ)。羽を落とそうにも、あるのはナイフだけ。ここから投げたところで悠々とかわされてしまう。
 「こっちにくるのを待ってたわ」
 女の声と共に、子供の体に影がかかる。上には伽糸粋(カシス)の殺気めいた顔があり、手には炎を握っていた。
 慌てて逃げようとした子供だが、長女は羽を掴むと火を放ち、片方の羽を焼け落とす。また、もうひとつは力ずくで引きちぎり、身は地面へと落とした。
 痛みで顔をゆがめる子供の近くに降り立った彼女は、鬼気を込めた右手を問答無用に子供の体の中へとねじ込む。
 雪祥(ゆきひろ)は、悲鳴と光景のあまり、思わず目を背けてしまう。
 しかし、本人は一切気にとめることなく、内臓を引っ張り出そうとし、さらに力を入れる。
 ようやく決着がつくと、子供はほとんど動かなくなり、誰も言葉が発せられない雰囲気に。
 そんな中、ため息をついた伽糸粋(カシス)の手には、黄金に光るトロトロの液体が入ったビンがあった。人間の頭ひとつ分ぐらいの大きさである。
 「カ、カシ、スちゃん。こいつの、正体ってさ」
 声をかけられた妖怪は、普段どおりの笑顔に戻ると、雪祥(ゆきひろ)の答えにうなずいた。
 「あなたなら気づいてくれると思ってたわ」
 「やっぱり、女王蜂だったんだね」
 少年っぽい姿をしていたのはただのカモフラージュ。外見など妖怪クラスではどうとでもなることを彼は知っていたので、蜂の軍隊と液体、そして大きな羽と針状の武器を総合して出てきた答えがそれだったのだ。
 「そういえば杖はどこにあんだろ」
 恐る恐る近づき、服をつまみ上げると、伽糸粋(カシス)が言っていた通りの場所にモノはあった。取り出してみると、朝顔がついた杖は、もはやカラカラになっている。
 「それで蜂たちの力を上げていたのよ。おかげで楽に一撃で倒せなかったわ」
 「そ、そーだったんだ」
 けっこう力こめてたのよ、と困ったように口にする伽糸粋(カシス)。こう話しているときは、年頃の少女と変わらぬ立ち振る舞いである。
 手にした杖をクルクル回しながら、雪祥(ゆきひろ)はどうすればよいのかを伽糸粋(カシス)にうかがう。彼女が受け取ろうと手を伸ばすと、人間は先ほどの表情を思い出してしまった。
 相手も彼の感情を感じ取り、手を元に戻して下を向いてしまう。
 「あっ、ゴ、ゴメンッ。これだよね」
 伽糸粋(カシス)は首を振り、無理をしなくてもよいと話す。
 「あたしたちの世界に正義なんてない。あるのはただ強者が弱者を食らうことだけなの」
 だから人が恐怖を感じるのは仕方のないことよ、と続く。今度は雪祥(ゆきひろ)が視線を落とし、何も言えなくなってしまった。たとえ生きてきた世界の違いや人外であるとはいえ、彼女は彼にとって友達であり師匠の一人でもある。
 そんなかけがえのない存在を、わざとではなかったとはいえ、あのような表情にさせてしまったのだ。相手がいかに気にしないでよいと言っても、気分が沈んでしまうのは致し方ないのかもしれない。
 また、長い間見守ってきた彼女からしても、この姉弟は心優しいところがあるのを知っている。それ故、言葉を間違えれば追い討ちをかけることになってしまうのだ。
 「その杖は役にたちそうだから、ジジに送っとくわ」
 「そっか。あ、早く涼ちんのところにもどろっか」
 「ええ」
 何事もなかったかのように微笑んだ彼女は、提案されたとおりの場所に赴く。もうひとりの伽糸粋(カシス)に付き添われている涼太は、先ほどよりは若干顔色がよくなっていた。
 仲間が近づいたことに気がついた彼は、どうなったかをうかがう。
 「もうバッチシッ、なんだけど」
 「何か問題があったのか」
 「いやぁさ、悪ガキだったからさ」
 お尻ペンペンしてやろうって思ってたんだけどできなくって、と頭をかきながらヘラヘラと言い放つ雪祥(ゆきひろ)。伽糸粋(カシス)は吹き出し、涼太は開いた口がふさがらない。
 大きなため息を出した彼は、姉があんなに生真面目な性格をしている理由がわかった気がした。
 「んなコトよりさ。いったん保健室いこうよ。オレ疲れちゃった」
 「そのほうがいいかもしれないわね」
 「そうしてもらえると助かる」
 「なら行きましょうか」
 そう口を動かした伽糸粋(カシス)は、三人を囲むようにして赤い円を生成。空に向かって伸びた火の直線は景色を遮断し、包んだ者たちの感覚をなくさせる。
 白い部屋の中心に出た彼らが見たものは、短剣でジャグリングをしているクサナギと、壁にナイフを投げつけている加濡洲(カヌス)の姿。妹が何をしているのかと聞くと、リハビリとヒマつぶし、という言葉が返ってくる。
 「あんたね。安静にしてなさいよ」
 「んなコト言ってもよぉ。つまんねえんだもん」
 「あのねえ。クサナギ、あんたも何やってんのよ」
 「え。暇潰しに付き合ってるんですよ」
 この二人は、と、血族は頭を抱え、人間組はあんぐりとしてしまったのだった。

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