東京異界録 第3章 第13録

 生きるって何だろう。本気で生きるって、どういう意味なんだろう。
 私は生まれて初めて、答えの出ない難問に突き当たった。教科書に例題はなく、先生に聞いても納得のいく回答は得られない、らしい。
 それどころか、人によってはテキトーなことで回避しようとしたり、逆ギレされたりと、いわゆるお茶を濁す言動をするとか。
 もちろん、相手によるとのことだ。
 「人間のジンセイ云々ってのはわからねえけど。話を聞く奴を間違えるなってことだな」
 余程のことがねえ限りオレたちは存在し続けるからな、とカヌス君。嫌味ではなく、寿命という概念があるかないかの違いだとか。
 後者にあたる妖怪からすると、時間の制限がない分、のんびりしてしまうそう。だから、人間の立ち位置で考えることができない、と口にする。
 う、うーん。わかるような、わからないような。
 「加阿羅(カーラ)が言うには、夏休みの宿題がいい例だってよ」
 「何それ」
 「さあな。又聞きになるけどよ、ためまくった宿題を夏休みの最後のほうで一気にやると何故か終わる、だったっけか」
 「いやいや、そもそも少しずつやってれば」
 あ、そうか。身近によろしくない人物がいるわ。毎年、最後のほうにヒィヒィ言ってるっけ。
 「うん、よくわかった。寿命っていう時間制限ってことよね」
 「お、おう。そうだな」
 急に理解した私を、次男坊は不思議そうに見ていた。
 しかし、現状は裏腹に、訳のわからない状態になっている。一向に減る気配がない怨鬼(おんき)や怨霊の多さにうんざりしかけていたところ、突然音もなく床が抜けたのである。
 「わっ」
 「ちっ」
 唐突にできたマンホールの穴の上に浮かぶ私たち。カヌス君が空を飛ぶジュツをとなえたようだ。
 「な、何。あの穴」
 「さあな。先に霊力を感じるから、人間にはヤべえところだな」
 つまり、人間組は落ちちゃいけないってことか。
 彼は隣で何かをつぶやき言の葉が切れると、黒い口は素直に閉じる。それにしても、どうして急に現れたのかな。
 「手段は選らばねえってことか」
 気をつけろよ、と彼。理由はともかく、何が何でも力を手に入れたいのだろう。でも、一体どうして。
 そうだ、相手の目的って何なのだろう。どうして力がほしいと思うのか。
 あ、力で思い出した。そういえば、自分の身を守るために、カーラ君たちは戦いかたを教えてくれたんだっけ。きっと繋がってるってことよね。
 本当はゆっくり考えたいのだけれど、そういう状況でもない。でも、戦いながらでもよいから、少しでも何かにたどり着きたい。
 「おーい、こう抱えてっと腕が痛えんだけど」
 え、あっ。
 そうだった。カヌス君は穴に落ちないように捕まえてくれてたんだっけ。しかもすごい体勢だってことに今気づく。
 右腕一本で丈の長い上着を持つように、私の体が真ん中で折りたたまれていたのだ。
 普段どおりの廊下に足をつけると、今度は何も起きない。とはいえ、今は夜の町に起こっている怪異と同じ状況下にいる。
 「ねえ。この結界が解ける条件って何」
 「んあ? そりゃあ」
 「あんたの力をあの方に捧げればいいのさ」
 まるでグラスのコップに金属を軽くぶつけたような女の声が耳に届く。コツ、コツ、と響き渡るヒールの音は、相手の気位を示しているかのようだった。
 「何だてめえは」
 「口の利きかたを知らない坊やね。親の顔が見てみたいわ」
 「別になんてこともない、フツーの顔だぜ」
 そ、そーじゃないと思うんですけど。
 だが、いつもの不敵な笑みを崩さない辺り、やはり肝が据わっているのだろう。あるいは、それだけ余裕があるか、だ。
 それにしても口が渇く。今まで会った中でも群を抜いている気がするのだけど。
 女は何かを納得したのか、私を視界に入れて目を細める。
 「この子が拠り代、ねえ。おいしそうな子じゃない。ふふ」
 舌で唇をなめながら言う女。全身に鳥肌程度じゃない、せめて震える足をまっすぐにさせ、表情を変えないようにするのが精一杯だ。
 これが強い力を有し、敵意や悪意を持った妖怪なのね。クサナギのときのような、力を抑えていてくれた状態とはまったく違う。
 「お前、あの女の手下だな」
 「何の事さ、知らないねえ」
 「ま、簡単に口を割るワケねえか」
 と、すぐさま戦闘体勢に入るカヌス君。今までにない速さで対応する、ということは、だ。
 私も構えをとり、いつでも応戦できるように準備する。
 「勇ましいじゃないか。そうこなくっちゃあ、楽しめないっ」
 死神のカマのような武器を手にしながら突進してくる女。一方、相方は前に出て得物を止める。
 お互いの髪と服が重力に逆らわなくなったとき、周囲に亀裂が走った。そこからは、巨大なハエらしき存在が現れたかと思うと、すぐに人型をなしてこちらに向かってくるではないか。
 耳障りな奇声は心臓が弱い人には聞かせないほうがよい。何らかのジュツがかかっているようで、こちらの動きを封じようとしているみたいだ。
 こんなところで負けてたまるか。ようやく答えが見つかりそうなんだから。
 本物の虫と同じく素早い相手は、こちらに攻撃をさせる時間すら与えてくれない。だが、威力は弱めでも相手を止まらせることが出来れば、次に繋げることもできるだろう。
 私は素早く右腕を前出し雷撃を放った。一発目がハエとの間までいった際、別の角度に向けてもう一撃をお見舞いしようとする。

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