東京異界録 第3章 第10録

 明日香たちが入った部屋には、誰もおらず、しんとしている。当然、視覚と聴覚機能は意味をなさなかった。
 「主人(マスター)、ガンバってっ」
 「う、うん」
 と、語尾にハートマークがつきそうな口調で言うプリム。一方、加阿羅(カーラ)は呆きれ半分が混じっている、いつも通りの笑顔だった。
 こういう場面には慣れているのか、弱冠十二歳にしては随分と落ち着いた様子で目を閉じる明日香。
 十数秒ほど時間が過ぎると、彼女は行動に出た。剣を出現させ黒板の上にある放送拡張器に投げつけたのだ。
 『ぎゃあっ。お、おのれ、何でここがわかった』
 「隠れるのが下手だからだろう」
 挑発とも取れる発言をした加阿羅(カーラ)は、頭だけをそちらに向ける。プリムは明日香の頭をいささか乱暴になで、本人はほっとしたような顔をしていた。
 「思ったより訓練されているんだね」
 「あったり前じゃない。クゥちゃんと二人がかりで、みっちりよ」
 と、ウィンクしながら答える、見た目は大人の女性。ため息をつきながらも、加阿羅(カーラ)は加阿羅(カーラ)で戦う準備をしていた。
 だが、明日香はお構いなしに教壇を足場代わりにし、スピーカーを両断。
 箱からは、角とトカゲの尻尾のようなものがついた人型の物の怪が出現。どうやら、怨霊の中でも高位に位置する存在のようである。
 「フレーッ、フレーッ。マ、ス、タァッ」
 いつの間にかチアリーダーの格好になっているプリムは、手にしているマラカスを加阿羅(カーラ)にさし出し一緒に応援するように要求。光の速さで断った彼は、ある人物の女版だと思った。
 騒がしい背景を無視し、細剣を構える明日香は、異形の存在とにらみ合う。そして、ジリジリと、窓際へと歩いていく。
 小娘が何を考えているのかわからない怨霊は、舌打ちしながら襲い掛かる。力押しすれば負けることはないと考えた相手は、食い殺すことができるだろう唯一の存在に的をしぼったのだ。
 だが、少女は真正面からの攻撃を防ぎ、徐々に後退していく。壁際まで来たのが災いとなり、上から押さえつけられてひざをつく。
 だが、チームメンバーは相変わらず傍観していた。
 「へっ。頼りにならない仲間だな。ここはひとつ、お前だけで我慢してやる」
 「そういうの、負け惜しみっていうんだよ」
 「こ、この糞餓鬼(クソガキ)があっ」
 何かの琴線に触れたのか、相手は明日香に対しさらに力の圧力をかける。彼女の腕が直角になる直前、怨霊の足元が崩れ去った。少女の足元から、するどい影状の得物が発生していたのだ。
 「がっ、いつの、間、に」
 重さがなくなると、明日香ははじき返し、真一文字になぎ払う。
 楓に攻撃したときよりも早く強い一閃は、怨霊に何もさせずに姿を消させた。
 初めから何もいなかったかのように、加阿羅(カーラ)は、
 「上出来。飲み込みも早いね」
 「とぉぜんでしょ。ね、主人(マスター)」
 「う、うん。でも、ちょっと緊張、しちゃった」
 手がしびれてるの、と明日香。それはしびれてるんじゃなくて、体がビックリしてるのよ、とプリムは言う。
 「じきに慣れるわ。そ、れ、よ、り」
 怨霊がいた場所に鋭い視線を送った女性は、角の生えたトカゲのような姿をした妙な生物を視界に入れる。目が合うとビクついたそれは、足早に教室の端へと走っていく。
 しかし、いつの間にか移動していた加阿羅(カーラ)が風の術を使い捕獲してしまう。
 「はい。後は好きにしていいよ」
 触れるからね、と彼。緑色の鎖にぐるぐる巻きにされた怨霊を見た明日香は、瞬きをすると、生きてたんだ、と口にした。
 指導者から受け取った女の子は、じーっと見つめると、かけていたポシェットにしまい込む。
 「あら主人(マスター)、吸収しないの」
 「楓さんにあげる。不安定みたいだから」
 優しいのねえ、となでなでするプリムに対し、思わずあごに手をやる加阿羅(カーラ)。たった一度しか戦っていないのに、楓の状態を把握していたからだ。
 「明日香ちゃん。君は拠り代を知っているかな」
 「こ、言葉だけは、しってるわ」
 「誰に、何を指示されたのかな」
 肩をビクつかせる明日香。プリムが傍に座り、様子を見る。
 明日香は服の裾を掴みながら、
 「お、おじいさまに、連れてこいって」
 「そうか。プリム、あの老人の背後に何がいる」
 「さあ。少なくとも、加具那(カグナ)ちゃんのような感覚はあったわよ」
 直接会ってないし見てもない、と保護者その二。クサナギと同じ反応だが、偽っている様子ではなさそうだ。
 「言わなかったかしら。私は数百年前クゥちゃんに創られたって」
 「聞いたよ。猫だっけ」
 「主格はね。他にもいるけど、別にいいわ」
 プリムは当時、明日香の祖先にかわいがられていた飼い猫で、主が目の前であの老人の一部にされてしまったという。つまり、以前倒した男は、肉親すら手にかけたのだ。
 そのとき、クサナギは本人の命令で遠出しており、戻ってきたときには、部屋には猫、今ではプリムと名乗っている存在しかいなかったのである。
 幸いその飼い主には弟がおり、男だったこともあり命を落とすこともなかったらしく、以後彼に尽くしたという。
 「成程。なら可能性はぐっと高まるな」
 「どうかしら。狡賢いところがあるらしいわよ」
 「悪賢さならこっちのほうに分がある」
 「あらヤダ。自分で性格悪いなんて言っちゃダメじゃない」
 「他の要(かなめ)のほうがひどいって」
 「あらら。それは楽しみネ」
 何がだ、と思った加阿羅(カーラ)だが、明日香が校内を見学したがっているのもあり、流して回ることにした。

 

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