東京異界録 第2章 第8録

 赤土(あかつち)、もとい、須藤君と和解した、と言うべきなのかしら。まあ喧嘩を売られなくなったのは間違いないので、そういうことにしておこう。
 気がかりなのは彼が抱えている問題で、命に関わることだから何とかしてあげたい気持ちもある。
 それに、思っていたよりよい人だったしね。こちらのことを考えてくれていたし。
 私は家に帰ってから、カシスちゃんにLINEで連絡をとった。カーラ君やカヌス君でもよいんだけど、何となく彼女のほうが相談しやすいから。
 『そういうことがあったの』
 『うん、何とかしてあげたいんだけど』
 『そうね。呪いの種類によって解きかたが違うから、見てみないと何とも言えないわね』
 『じゃあ、店に連れてくればいい?』
 『ええ、そうしてくれるとありがたいわ』
 『わかった。須藤君に連絡とってみるね』
 正直、ちょっと思うところもあるけど、きっと何も言わないのは理由があるんだと感じている。彼女たちにも事情があるだろうし。
 本当に何もないなら、七年間も面倒見てくれることもないだろう。
 複雑な感情を持ちながら、私は眠りについた。
 翌朝、須藤君から連絡があり、明日ならいける、という返答が。ユキにも話し、彼も同行することに。
 須藤君には店の住所を教えて、直接きてもらうことになった。どこでどーなったのかは知らないけど、噂になってるので。
 三股とか意味わかんないから、もう。
 「カラちゃんとカヌちゃんと、涼ちん、ねえ。そりゃ噂にもなるんじゃない」
 「何でそうなんのよ」
 「トシゴロのネンレイってことなんじゃない」
 誰がどう想ってるのかはわからないけどさ、とユキ。周りが好き勝手に盛り上がってるだけよ、と言ったが、所詮、他人事だしね~、とカーラ君。私以外は気にも留めていないようだ。
 そうそう、私と彼とカヌス君はバスケの練習をパスして直接店に来たのである。もちろん、ユキやカシスちゃんも一緒だ。
 一方の須藤君は、私たちより遠くて授業が終わる時間も違うため、まだ来ていない。
 「伽糸粋、お前あのとき何もしなかったのかよ」
 「ええ。あえて泳がせたのよ」
 「カシスちゃん、どういうこと」
 「今日わかるわ。言わなかったのは混乱させちゃうかなって思ったからなの」
 ふうん、とユキ。表情を見るからに、弟も何も言わないことに関して疑問に思っているのかもしれない。
 店の扉が開くと、少し息を切らした須藤君が入ってくる。約束の時間より早いが、事が事だけに急いだのだろう。
 「すまない、遅れたか」
 「大丈夫よ。はい、お水」
 ありがとう、と言いながら、差し出したグラスを飲み干す彼。少し落ち着いたところで、話が始まった。
 「話は藜御から聞いてる。集まってくれて助かる」
 「へえ~、意外に礼儀正しいんだね~」
 カーラ君が笑顔で口にする。しかし、雰囲気はいつもと違っていた。
 一方の須藤君は、何故か緊張しているようで、難しい顔をしている。
 「す、どう涼太だ」
 「おいおい。ここまで来てそれはナシにしようぜ」
 何か企んでいそうな笑みと共に、腕を広げる。まどろっこしいのは嫌いなんだよ、と続けた。
 「正面からぶつかるのが、あなたの流儀じゃなかったかしら」
 にこっ、と微笑むカシスちゃん。彼女も兄たちと同様に、様子が異なる。
 須藤君は、目を見開くと、大きく深呼吸をする。
 「如月涼太。堅守(けんしゅ)の如月だ」
 「え。須藤じゃなかったの」
 「それは母親の旧姓だ。お前たちがどこまで知ってるのか、わからなかったからな」
 「そういうことなのよ、楓」
 カシスちゃんは、実は前々から須藤君、ならず如月君の動向をうかがっていたのだという。理由は、彼が十二月の一人だから、なのだとか。
 以前、如月君が怨鬼にのっとられたのを見たときに、正体を確信したらしい。いかに十二月といえども、体をとられて処置をせずすぐに動けるのは、ケンシュぐらいだというのだ。
 「で、そちらは。怨霊か妖怪なのは間違いないだろうが」
 「ふん、少しは知ってるみたいだな。オレは加濡洲(カヌス)、こっちは伽糸粋(カシス)だ」
 「な、加濡洲(カヌス)に伽糸粋(カシス)、だとっ」
 後ろに飛んで距離を置く。そして、ポケットに手を突っ込んだまま、彼らをにらんだ。
 「あ、藜御(あかざみ)。お前ら、とんでもない連中と関わってるんだな」
 「はい?」
 私とユキは視線を交わす。弟も同じような表情だった。
 隣であらあら、と言い、クスクスと笑うカシスちゃんは、目を細めて如月君を見る。その瞳は、いささか赤黒い感情が見受けられる。
 「おや、来ていたのか。君はどんなメニューがお好みかな。おごるよ」
 奥からカグナさんが、笑った顔をひょっこりと出す。目の前のカウンターには、カーラ君が足を組みながら、如月君を眺めている。
 まるで、貴族がそこにいるかのようだった。
 そんな彼らを、現代人の同級生は、恐る恐る見つめる。意地悪そうに笑いながら、長男は、
 「二人の名を聞いて驚くなんて、よほど通な人間だな。面白い」
 彼の口調と目つきが、変わる。そして、妖しく笑いながら、
 「要(かなめ)が一、木(もく)の加阿羅(カーラ)」
 「同じく要(かなめ)が一、土(ど)の加具那(カグナ)。よろしく、涼太君」
 双方の名前を聞いて、顔に血の気がなくなるほど凍りつく如月君。
 今までとまったく違うカーラ君を見たとたん、私の背中に嫌な汗が流れる。
 怖い。
 それが正直な気持ちだった。

 

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