東京異界録 第2章 第22録

 嫌な雰囲気が漂う中、私は体を動かそうと必死に力を入れる。だが、まるで何かに抑えつけられているような感じがして、動くに動けない。
 「書き終わったのなら、こちらに紙を持ってきてもらえるかな」
 あのクソジジイ、知ってて言ってるっぽいわ。口がニヤけてるし。
 そんな相手は、帽子を取りながらため息をつき、
 「近頃の娘は人の頼み事が聞けないと見える。お仕置きが必要だの」
 と、訳のわからないことを言いながら、指をパチンとならす。
 すると男の隣の空間が歪み、中からライオンのような生き物が現れる。いや、正確に言うと、ライオンらしい生き物、である。
 顔はそのまんま、背中には翼がはえており、背骨のところにはとんがっているたてがみがある。ライオンにそんなものはなかったと思うが。
 「な、何なのよアレ。化け物っ」
 「いやああ、私たち、食べられちゃうのっ」
 「ちょっとあんた、さっさと紙を持っていってよ」
 「ギャアギャアうるせえんだよ。動けなくなってんだ、無理に決まってんだろ」
 「ほお」
 カスヌ君、で、いいわ。面倒だから。彼は瞬時に異常に気づき、何も知らない一般人を怒鳴りつける。だが、じいさんには逆効果だったようで、目が怪しく光る。
 「これは思いがけない収穫だ。お嬢さんも強い霊力を宿しておいでのようだ」
 じいさんが出している重圧感がさらに増していく。
 「はん、やっと正体を出しやがったな。ジジイ、ここ最近の人さらい犯だな」
 「人聞きの悪い。どこに証拠があるのか」
 不敵な笑みで対峙する女の姿をした次男坊は、鼻で笑いながら左親指で胸を指し、
 「てめえの胸に聞いてみろよ。何なら心臓をえぐり出してやってもいいんだぜ」
 まるで悪役みたいなセリフだ。だが、今の彼は普段よりも口調が荒く、強い。おそらくイライラしているのだろう。
 機嫌が悪いとカヌス君、荒れるのよね。カーラ君はだんまりになるけど。
 「ほお、これはこれは恐れ入る。どこの者かな」
 「うるせえ。てめえのような三流に話すことなんざねえんだよ、このハゲ」
 「何だと貴様」
 じいさんのカッと見開き、血のような色になる。さすがの相手も、瞳の色と同じ感情になったよう。
 ってか何で怒らせんのよ。危ないじゃないのよっ。
 じいさんはライオンに彼をかみ殺すように命令する。百獣の王は、人間では対処できないスピードで突進していく。
 もちろん軽々とよけると、尻尾をつかみ力任せに壁に叩きつけた後、肘鉄で首を攻撃する。化け物はしばらくけいれんしたのち、動かなくなった。
 だが、じいさんの顔は元の穏やかな表情に戻っている。
 「中々の腕だ。気に入ったぞ」
 パチン、と再び指をならす。すると、背広を着た男が十数人、一瞬で姿を現す。
 「拠り代とそこの娘がいれば良い。他はどうなっても構わん」
 「イエス、マスター」
 な、何ですってっ。
 『楓、霊力を道具に集中させろ。そうすれば動けるようになるぜ』
 わかった、と心の中で伝える私。仕組みはわからないが、レイリョクを通じて会話ができるジュツらしい。
 私は言われた通りにし、ポケットにある彼からもらった道具に力を集める。すると頭の上からかかっていた重力がなくなり、すぐさま怯えて座り込んでいる女の子たちの元へ。
 手甲と服を装着し、ゆらゆらと落ち着きのない男たちと向き合う。
 どうも変ね。人間のように生きている気がしないわ。まるでゾンビみたい。
 ドラマにでてくる要人を守る人たちのようなのかと思いきや、動きがものすごく鈍い。簡単にぶっ飛ばせるし、そもそもこちらの攻撃をよける気もない、というか。
 だが、半分減らしたところで息が上がる。大して戦ってもいないのに、どうしてこんなに疲れるのかしら。
 ドサ、っと音がすると、カヌス君が背中を合わせてくる。
 「どうした、何この程度でヘバってんだよ」
 「わ、私が知りたい。何でか体が重いのよ」
 「何だって」
 「ほっほっほっ、良くやりよる。さすがは拠り代と言ったところか。春夏冬(あきなし)お嬢さんは、彼女の守護者とお見受けした」
 何言ってんの、あのじいさん。
 隣で舌打ちが聞こえたような気がしたが、意識がぼんやりして定かではない。そして、相手はまた指をならしたようだ。
 今度出てきたのは、扉からだった。かちゃり、と開けられた場所には、十二月(じゅうにげつ)の女の子が立っている。
 「お前の出番じゃ。立っている者達から奪うのだ」
 「は、はい」
 暗い顔をした女の子は、ゆっくり踏みしめるように近づいてくる。過程で彼女は、小さな剣を抜き放つ。
 剣を構えると別人になったかのような動きになり、低姿勢で突撃してきた女の子は、意外に素早く、私めがけて獲物を突きつけようとする。
 だが、剣が届く前に氷の壁が阻み、彼女は距離をとった。カヌス君が結界を張ったのだ。
 しかし、氷はすぐにガラガラと崩れ去ってしまう。
 「あの一瞬で切り刻んだのか。やるじゃねえか、ガキんちょ」
 彼女は何も答えない。目は死人のように光がなく、どこか遠くを見据えていた。
 「この期に及んでまだ迷っているのか、この馬鹿者が。育ててやった恩を忘れたのか」
 彼女の手が、震えている。
 「今度失敗したら後がないと言ったはずだ。それでも良いのだな」
 そう口にしながら、じいさんは服から何かを取り出した。

 

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