東京異界録 第2章 第15録

 プリムを倒し如月君が男に止めを刺そうとした矢先。いつもフォローしてくれている妖怪兄妹のひとり、カヌス君がそれを阻止した。
 彼は普段どおりの勝気な笑顔で、左腕を下ろす。戦闘時に身に着けているらしい和服姿で、味方の攻撃をさえぎったのだ。
 「あ、あなたは」
 「久しぶりだな、クサナギ」
 驚いている男に対し、名前だろう名詞を呼ぶカヌス君。目を見開いているあたり、どうやら知り合いみたいだけど。
 彼は、私たちのことはお構いなしに、
 「存在してたとはな。てっきり破壊されたかと思ってたぜ」
 「いえ。私はあの時、間違いなく消滅しましたよ」
 カヌス君はこちらに背中を向けているので、表情が読みとれない。だが、黙った、ということは、何か疑問に感じているのかもしれない。
 「修理してくださった方がいたのです。その方の血筋に、今はお仕えしています」
 「成程な。で、どうすんだ。このオレと戦うのかよ」
 「出来れば避けたいのですが。仕方がありません」
 クサナギという男は、再度剣を構える。私たちも反応するが、カヌス君は右手を上げて返事をする。見合わせる私と如月君だが、もう少し様子をうかがうことに。
 「相変わらず頭が固えヤツだな。誰に似たんだか」
 ため息をつきながら左手で空を切る彼。切られた空間の傷跡は黒く、中はよくわからないよどんだ色をしている。
 そんな意味不明な場所に手を突っ込み、次男坊は何かを引っ張り出した。何と、小さな女の子だ。
 しかも、声を出さず暴れているその子を羽交い絞めにし、のど元にナイフを突き刺したではないか。
 「さあ、どうすんだ。こっちの事情はわかってんだろ」
 「主人(マスター)に何をしたんですっ」
 「あまりにうるせえから声を封じただけだ。心配すんな」
 何が心配すんな、だ。小さい女の子相手に何やってんのよ、あんたはっ。
 「待て、もう少し様子を見よう」
 「何言ってんのよ。あの子がかわいそうじゃないっ」
 「クサナギとやらがあの子を、主人(マスター)、と言ったんだぞ」
 「それがな、に、って」
 私はようやく気づいた。私を殺すように仕向けたのは、小学四年生ぐらいの女の子、ということに。
 もちろん、会ったのは初めてだ。歳も離れているし、恨みを買った覚えなんてないんだけど。
 本人と妖怪との間には物理でもレイリョクでも相当の差があるのだろう。女の子は足をバタバタさせ、ずっともがいている。
 その様子を、今にも噛みつきそうな表情で見ている男。ついに屈したのか、わかりました、と口にすると、持っている剣を放り投げる。
 「はい、コウショーセイリツっと」
 剣の悲しみが響く中、カヌス君は両手を離し、女の子を解放。しりもちをつきながらも、急いでクサナギのそばに駆け寄った。
 「大丈夫ですか」
 今、治してあげます、と、彼は患部を両手で覆うと、光を発生させる。すると、彼女は咳き込みながらお礼を言った。
 「ねえ、プリムは」
 「も、申し訳ございません。そこに」
 まゆをハの字にさせ、視線で場所を指す男。よくわからなかったらしい女の子は、同じ場所を見たとたんに叫ぶ。
 「ひどい、誰がこんなことをしたのっ」
 何かを拾い、抱きしめる女の子。涙をいっぱいにためた瞳は、私たちをにらみつけた。
 「あんたたちがやったのね。わたしのお友達を壊したのねっ」
 「馬鹿か。そいつが先に襲い掛かってきたんだぜ。こっちは返り討ちにしただけだ」
 「許せない。クゥちゃん、剣っ」
 「いけません。今は引きましょう、勝てる相手ではありません」
 「いいから剣っ。絶対にプリムのカタキをとるんだからっ」
 「ギャーギャーうるせえんだよ、クソガキが。そんなに死にたきゃ」
 「待ってください。ここは引きますから」
 別の意味で暴れている女の子を抱っこすると、今は耐えてください、と、なだめる彼。幼い主人は大人の男性に泣きつき、しゃくりあげてしまっている。
 しばらくしておさまると、再びこちらに対し、憎しみの視線を送る。
 「ぜったい息の根を止めてやるわ。覚えてなさいっ」
 冗談に聞こえない言葉と何とも言えない表情を残し、女の子と男は消えた。
 不思議と無音状態となったここは、きっと鳥が鳴いたらきれいに響くような雰囲気になる。
 「ったく、失敗か」
 「失敗? どういうことなんだ」
 ゆいいつ和服を着ている妖怪は語る。クサナギという男は、他の誰でもない、彼が創りだした存在なのだ、と。
 クサナギの正体は伝説の草薙の剣のレプリカで、カヌス君が初めて大きな創造をした相手なのだそうだ。かなり古い話で、三千年ぐらいはたっているらしいが。
 「細けえことはともかく。あいつはある戦いでオレを庇って消えたと思ってたんだ」
 「そうだったんだ。じゃあ、あの女の子は」
 「あいつを修理したっていう奴の子孫なのは間違いねえ。それにしても厄介なことになっちまった」
 再びため息をつきながら頭をかく彼。そうよね、自分が創った存在だもんね。きっと引き込もうとしたのだろう。
 しかし、返ってきたのは思っていたのと違い、
 「あのガキ、十二月(じゅうにげつ)だぜ。それに他の奴らも本格的に動き出しやがったみたいだぞ」
 という、警告だった。

 

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