東京異界録 第2章 第12録

 女はこちらにゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。まるで何かを踏みしめるように。
 「あなたが藜御楓(あかざみかえで)さんかしら」
 至近距離までやってきた相手は、如月君にそう聞いた。だが、本人は何も言わず、にらみつけている。
 「聞こえなかったのかしら」
 「だとしたら、どうするつもりだ」
 「あらあら」
 なぜかクスクスと笑う美女は、右手を動かし何かを呼び出す。初めは影っぽかったものが徐々に形をおび、剣へと実体化していく。
 「主人(マスター)のために死んでもらうだけよ」
 じょ、冗談じゃないっ。
 私は何とか動こうとするが、勘違いされた同級生はまったく微動だにしない。
 剣が振り下ろされた瞬間、長い刃物がスローモーションに映る。
 しかし、何かの音とともに元のスピードに戻った。ユキが殺人未遂者に体当たりしたのだ。
 「大丈夫」
 「あんた、動けるの」
 「うん。二人が座っちゃったからオレも何となく座っただけだし」
 よくわからないが、弟には効果がないようだ。レイリョクがないのと関係しているのだろうか。
 怒り気味でため息をつくと、
 「まったく、シャレにならないよ」
 「だから本気を出せって言っただろうが」
 「んまっ。助けてあげたのに」
 冗談と本気が半分半分のような返事をする彼。だが、さすがのユキもそこまで馬鹿じゃない。
 「あらあら、あなたには効かないのね」
 「そーみたいだよ。早くお帰りになったら」
 「そういうわけにもいかないのよねえ」
 主人(マスター)のために、と口にすると、ユキに対して攻撃をし始める。私と交えたときよりもスピードが上がっており、すばしっこい弟でも何とかよけられるぐらいだ。
 「動けるか」
 「ううん、まだ」
 「動けるようになったらひとまず逃げろ。お前たちじゃ危険だ」
 「な、何言ってんのよ。置いていけるわけないじゃない」
 「今のお前たちじゃ太刀打ちできない。このままじゃマジで」
 うわあっ、と聞きなれた声の悲鳴。思わず振り向くと、倒れて血を流している肉親の姿が。顔を何とか上げるものの、苦痛で顔が変わってしまっている。しかも、右わき腹を押さえているようだ。
 「邪魔をするなら死になさい」
 「ユキッ」
 私の中で何かが切れる。
 あんのクソ女、いい加減にしやがれっ。
 アタシの手に電気が走り気がつけば手のひらが向けられていた。相手の全身をしびれさせ吹き飛ばすと、急いで弟の元へ。
 「ユキ、ユキ、しっかりしなっ」
 「だ、大丈夫。危なかったけど」
 「血が広がってんじゃねえか。早く病院に行かねえと」
 「ね、ねーちゃん、早く逃げなよ。こ、この人、マジ、だよ」
 「アホか。だったらなおのこと行けるかっつうんだ」
 よくも人の弟を。しかも喧嘩レベルじゃない怪我を負わせやがって。絶対に許さねえからな。
 「どういう理由かは知らねえが。覚悟しなっ」
 アタシは右腕に力をいれて相手に攻撃をしかける。なぜかいつもより長くなっている爪は、相手を捕らえやすくなっていた。
 「くっ、何よ。いきなり力が上がるなんて」
 先ほどの余裕はどこにいったのか、女は焦り始めたよう。一度後ろに飛んで距離をあけると、口を動かし始めた。
 何かジュツを唱える気だな。させるかっ。
 アタシは手に雷で小さな刃を呼び出し投げつける。見事に右手の甲に刺さると、そこからレイリョクが出ていくのがわかった。
 だが、ジュツを封じたところで問題が解決されるわけじゃねえ。早くユキを病院に連れていかねえと。
 そのためには、相手をぶちのめすしかねえだろう。どうするか。要は引き上げてもらえばいいんだ。
 アタシはもう一度右足に力を入れ女に向かっていく。爪を上から振り下ろし、かろうじてかわした敵の服を引き裂く。もちろん、体にはダメージを与えられなかったが。
 「失礼な人ね。女の服を破くなんて」
 「知るか。こっちは早く病院に行かねえといけねんだっ」
 「まっ。何て野蛮なのかしら」
 人を殺そうとした分際で何言ってんだよ。
 口よりも行動で答えたアタシは、しでかしたことをわからせるべく攻撃する。
 「本当に何なのよ」
 何か言っているがお構いなし。アタシは距離を開けたがる相手に同意し、一度止まることに。
 当然、考えあってのことだ。
 理由はわからない。でも、今まで教えてもらったものが繋がったような気がしてな。
 つまり、こういうことだ。
 夜空に手をかかげると、アタシの手のひらに稲妻が集まってくる。天地をつなぐ細い光は徐々に太くなっていき、しまいには一本の柱となる。
 「くらえっ」
 勢いよく振りおろされた右腕から離れた青白い光の束は、女の体を直撃。悲鳴も聞こえず、そのまま倒れこんだ。
 アタシはそのまま、後ろにいるユキの元へ行こうとする。如月も動けるようで弟の元にやってきていたしな。
 「藜御(あかざみ)っ」
 珍しく声を荒げた同級生。だが、気づくのが遅かった。アタシの左肩は、剣に貫かれたのだ。
 一瞬気が遠くなったが、あまりの痛みに現実に戻ってくる。まるで肩に心臓ができたかように脈を打ち、人間の命があふれ出しちまった。
 「馬鹿な人。お返しよ」
 いつの間にか敵が二人になっていた。

 

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