東京異界録 第1章 第8録

 自宅のドアを開けて見えた、リビングに立っている謎の大男。あの黒ずくめはいったい何なのだろうか。
 「どうしたんだ」
 「だ、誰かが中にいる」
 条件反射のように行動した鳴兄は、私を押しのけ扉を開ける。乱暴に扱われた扉は彼を嫌がり大きく距離を置いた。
 右腕を動かしながら、部屋の中に入っていく彼。数分後、誰もいないことを確認すると、安心して入っていいと口にした。
 安心した私は、緊張感を吐きだし、憩いの場へと足を進める。ユキも続くが、表情が真逆になっていた。
 「ねーちゃん、どういう奴がいたの」
 「全身黒ずくめの大男。顔は包帯巻いてたから見えなかったわ」
 「うわ、イカニモって感じのヘンタイじゃん」
 「カレらに連絡したらどうだ。マボロシじゃないなら危ないだろ」
 確かに。ジュツってやつを使ったのなら、私たちじゃあ手に負えない。
 アドバイスどおりカヌス君に連絡する私。珍しく数コールででると、何かあったのかと聞いてきた。
 事のてん末を伝えると、今すぐこっちに来る、と彼。数十分後に到着すると、カシスちゃんも一緒にいた。
 「何事もなくてよかったわ」
 「うん。すぐに消えちゃったみたいなんだけど」
 女同士で話をしていると、妖怪兄弟の次男がリビングの中央でキョロキョロと伺っていた。
 「カヌちゃん、何か感じんの」
 「まあな。確かに何かいやがったな」
 「げえーっ、プライバシー侵害なんだけど」
 「心配すんな、より強い結界張っとくからよ」
 そう言うと、彼は手に乗るぐらいのアメジストをだすと力を集中し始める。紫水晶を中心にそよ風が起こると、すぐに収まった。
 ユキに渡すと、家の真ん中辺りに置いとけ、と伝える。
 ちなみに、これはアメジストじゃなく、彼が創り上げた名もない石なんだとか。何かを作ったり加工したりするのが得意だっていってたけど、本当に色々と創造するみたい。
 「そういやあよ、あの犬はどうしてんだ」
 「レオンのこと? 部屋にいるけど」
 「ちっと呼んでこい。力分ける」
 よくわからないが、言われたとおりに部屋に戻る私。
 そうそう、レオンは私が中学校に上がる前に死んでしまった飼い犬の名前なの。寿命がきてしまってお別れをしたんだけど、私のことが心配みたいで、ずっとツイてきていたのよ。とりつかれているってことじゃないんだけどね。
 それを見たカヌス君がカシスちゃんと協力してレオンをシキガミにして、部屋番させているってワケ。
 その部屋の扉を開けると、
 『おっ、おかえり、ご主人。きょうは早いんだな』
 と、まるでいたずら坊主のような笑顔の子供。しっぽが生えている四、五歳の男の子のような姿をしたレオンが、机の上に犬のようにおすわりしていた。
 「ただいま、レオン。カヌス君が呼んでるからおいで」
 『はーいっ』
 机から飛び降り、ちゃんと二本足で歩く元犬。さすがに慣れたらしく、昔のようによろついたりしない。
 ドアの外をうかがうと、自分の顔に近い少年を見つけたようで、そのまま姿を消す。
 リビングに行くと、創造主に頭をなでられてしっぽを振っているレオンの姿があった。
 「ここでも人の姿を保てるようになったか」
 『少しだけなら。キミのおかげだよ、ご主人とはなせてうれしい』
 「そりゃよかったな」
 カヌス君は、話しながらレオンの額に左人差し指をあてる。指先が青白い光を放つと、そのままレオンの中へと消えていった。
 「あまり一気には与えられねえから、少しずつな」
 『あとどれぐらいで外にでれる』
 「さあな。楓次第だな」
 「え、わ、私」
 おう、と彼。クエスチョンマークが浮かんでいるところ、カシスちゃんが、
 「式は主の力量によって変わるのよ。レオンはあなたとつながりが強いから、より影響を受けやすいの」
 「そうなんだ。あ、そうだ」
 シキの言葉で思い出した私は、廊下での出来事を伝える。こうしてシキを集めることで、私の力が高まるらしい。
 本当は力を転換する儀式みたいなのが必要らしいんだけど。ちなみに妖怪たちの場合はそのまま吸収しちゃうらしい。
 紙を見ている彼女の顔は、難しそうな表情をしていた。
 「随分と素直な怨鬼ね。何かあったの」
 「うーん、お腹すいてたからお菓子あげたぐらいだけど」
 「ああ、それでね。この子、楓のこと気に入ってるみたいよ」
 はあ、そうですか。何ともフクザツな気分だわ。
 私たちが話していると、次男が妹の持ち物をのぞく。
 「ま、使い魔ぐらいにはなるか。しっかし、お前はヘンなモノに好かれるよな」
 彼の言葉に反応してか、私の肩に豚と天狗が混ざったみたいな姿をした怨鬼が現れる。私が小さい頃に見つけた怨鬼である。
 「ソイツも長いこと傍にいっけどよ。ちゃんとエサやってるのか」
 「お供えはしてるけど」
 「もうそろそろ力が備わっていい頃よ。何の変化ないかしら」
 「全然。ずっとこの小さいままよ」
 両手をあわせて広げると、足場にしてくる四足歩行の丸い体に鼻が伸びている姿の怨鬼。天狗ちゃんって私は呼んでいるんだけど、カヌス君は豚天狗って呼んでいるわね。ちょっとひどいと思うけど。
 「やっぱお前の力が覚醒しない限り無理か。どうしたもんかな」
 「昔と違って流れが悪すぎるもの。仕方ないわよ」
 んな悠長なこと言ってもよ、とお兄ちゃん。ここで話しても仕方がない、とのことで、
 「とりあえず、今日はゆっくり休んで。侵入者のことはあたしたちが調べるから」
 「ありがとう」
 そういって妖怪兄妹は、人間と同じように家をでる。
 私はため息をつきながら、自室へと戻ったのだった。

 

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