東京異界録 第1章 第7録

 一度家に戻ることになった私と弟のユキは、店で妖怪たちと別れたあと、近くにある自宅へとむかう。
 徒歩十分ぐらいにあるその場所は、外観もキレイで、周りにコンビニやスーパーがあるため住みやすい。
 エントランスに入ってセキュリティになっている玄関に鍵をさしこみ、入口を開ける。管理人さんに会釈をしてエレベーターに行こうとすると、二十歳代前半の日本人とは違う見た目の男性に会った。
 「おかえり、遅かったな。店に寄ってたのか」
 「ただいま鳴兄。うん、ちょっといろいろあってね」
 「鳴ちゃ~ん、どこに行ってたんだよ」
 オレ閉めだされちゃったんだけど、とこのおチビ。お前は馬鹿か。
 呆れている私をよそに、鳴兄は、あははは、と笑い、
 「何だ、鍵、持っていってなかったのか。すまんすまん」
 今日はエビチリだぞ、とすんなり話題を変える彼。さすが大人である。
 彼は私たちの兄代わりの人で、血がつながってるわけじゃあない。色々とあって私が家にいれなくなったので、親が鳴兄を見張りによこしたのだ。娘の一人暮らしなんてさせられないと、父親が大反対したためである。
 確かに、小学生の一人暮らしは無理がある。なので、本来はカーラ君、カヌス君、カシスちゃんたちが大人の姿になって一緒に暮らすってことになってたんだけど。一応普通の感覚を持った父だから、ものすごい反発にあって。
 母親は自分がついていくなら容認するって条件だしたんだけどね。こっちはこっちでちょっとズレてまして。
 まあ、両親の思惑ともかく、だったら誰かを保護者代わりにつけようって話になったのよ。その白羽の矢が立ったのが年長組みの鳴兄だったのね。
 とはいっても当時は彼も十五歳。子供たちだけで暮らしているのは世間体的にもまずいから、鳴兄が大人になるまで、カグナさんたちが出入りしてたのよ。そうすることで、ごまかしてきたわけ。
 ちなみにユキは勝手に住んじゃってるんだけど。まあ、部屋は広いのを借りてくれたから、問題はない。
 「カエデ、ユキヒロ、無理はするなよ。兄貴が怒り狂っちまう」
 「親父が暴れてもカーラ君たちには敵わないから大丈夫よ」
 「ソレはソレ。姉さんも悲しんじまうだろ」
 「ねーちゃんは見た目はクールなんだけど、実際は向こう見ずだからね」
 オレは意外に冷静だもん、とユキ。た、確かに頭に血が上りやすいのは私のほうだ。
 エスカレーターの動きが止まると、見慣れた廊下が見えてくる。ごく一部を除けば、だが。
 不思議に思ったのか、二人が振り返る。
 「どったの、ねーちゃん」
 言葉は出さなかったが、眉をハの字にした表情で答える。そして、男たちを追いぬき、非常階段出入り口にいる、それ、に小声で話しかけた。
 「何してるの」
 『えっぐ、ぐす、おなかがすいたの』
 顔はタレ目の仁王様で、私の手のひらぐらいの小さな黒い体。どうやらこの怨鬼は、お腹をすかせてさまよっているらしい。こういう悪さをしない奴もいるのだ。
 私はカバンの中をあさり、アメと一枚の長財布ぐらいの紙を取りだす。甘い香りに気づいたのか、泣くのをやめてこちらに体をむける。
 『たべもの、くれるの』
 「あげてもいいけど、この紙のことはわかる」
 『うん、しきになる。だからちょうだい』
 笑いながら手を腕を伸ばす怨鬼。周りにハートマークが飛んでいそうな雰囲気と仕草が、ちょっとかわいい。
 私は鳴兄にお菓子はないか聞くと、一口チョコがあると返答が。ひとつもらい、物の怪に差しだす。
 小さな手でわしづかみすると、体の中にモノが消えていく。満足したらしい怨鬼は、ありがとう、と白紙の紙の中へ。何も描かれていなかったそれに、黒文字の模様が浮き上がっていく。
 おそらく二人には見えていない、淡く光った黒色がやむと、まるで墨汁で書かれたお札が完成した。
 「ねーちゃん、それってオフダってやつだよね」
 「うん、ここに食べ物欲しがってる怨鬼がいたのよ」
 「へえ~、わからなかったなあ」
 「オレも。やっぱりレイリョクってヤツがないと見えないんだね」
 と、お互いに顔を見合わせる彼ら。そう、二人からは理解を得ているが。
 中にはそうじゃない人たちもいる。とくに子供はそうで、自分には見えないからと簡単に否定する。もちろん、今となっては仕方がないことだともわかっているけど。
 そういう意味ではきっと、私は恵まれているんだろうな。
 「どうしたんだ、そんなにオフダがうれしいのか」
 「ううん、そうじゃないけど。早く家に入ろうよ」
 「オレの素直さ分けたげよっか」
 気恥ずかしい奴ね、っとに。
 私はゲンコツで返事をし、頭を抑えている弟を無視して鍵を開ける。カチャっとなった扉は、安息の地へと導いてくれる、はずだった。
 部屋が見えたと同時に思わず身が縮こまる感覚が走る。暖かな空間のはずの家に、見ず知らずの輩がいたからである。
 黒い服に身を包んだ長身の男は、目だけを光らせ、それ以外は包帯に巻かれ特徴が見えない。
 視線をかわしてしまったように感じた私は、思わずドアを閉めてしまった。

 

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