東京異界録 第1章 第5録

 いったいどこから湧き出てくるのか、狼の数は一向に減る気配がない。一番前の奴らを倒しても、最後列にまた出てくるような感じだ。
 「肌の新陳代謝かよ、っとに」
 「面白い例えだね」
 「そりゃどうも」
 あちらは大太刀を、こちらは武器の爪で相手を攻撃。減らせる数は違えど、確実に倒しているアタシたち。
 まいったなぁ、こういうゴールが見えないのって精神的にくるんだよな。
 思わず大きく息を吐きだしてしまうが、カーラ君の顔色はまったく変わっていない。初め背中合わせだったが、カヌス君がジュツを唱え始めてからは肩を並べる状態なので顔が見えるのだが。
 表情を見るからに、どうも楽しんでいるような気がするのだ。
 「なあ、どうにかならないのか。これ」
 「ん~、どこからわいてくるのかが突き止めれられれば何とかなるんじゃない」
 テキトーだな、おいっ。
 「ほらほらよそ見しない。君の修行でもあるんだから」
 「もうちょい安全なトコで頼みてぇんだけどっ」
 頭上からくる噛みつきをかわし、わき腹を爪で引っかくように攻撃。三本の線が血のない体を引き裂く。敵は傷口を見せながら倒れて、霧のように姿を消した。
 ったく、何体倒したかな。このままじゃ体力がもたねえっつうのに。
 気を紛らわすか。
 「あのさ、カーラ君楽しんでんじゃねえの」
 「こんな雑魚相手じゃつまんない」
 肯定してんだか否定してんだかわかりかねるな。単調に飛び掛ってくる狼たちには、こちらも同じような動作で応戦しているが。
 前から思ってたけど、穏やかなのは顔だけで、非常に好戦的な性格をしているようだ。逆に、カヌス君は口調は荒々しいが、兄ほど戦いが好きじゃないよう。どちらかというと面倒くさがり家で、手間を避ける傾向にある。
 共通しているのは、興味がなかったら動かないところか。何とも気分屋な連中だ。
 カーラ君だけじゃなく、物の怪は基本、血を求める傾向があるらしい。性格によると聞いているが、この人は典型例だとか。
 しかし戦いの最中、敵だけに集中しなくてもよくなったなんてな。相手が相手だからかもしれねえけど、伊達に七年間は戦い続けてないってことか。
 まあ、こんな風にいつも実戦に放りこまれて二人が見てるって感じなんだけど。たまに体力を回復してくれるし。
 「ほらボサっとしない。手が止まってるよ」
 はっ、と現実に戻ったアタシの視界には、目の前に迫った大きな獣の皮が。間一髪でかわしたつもりだったが、肩に深めの引っかき傷を負ってしまう。
 いってぇ、しまった。これじゃあ利き手が使えねえし。
 焦りが頭をよぎると、後ろのほうで何かをしていたカヌス君が、
 「加阿羅、原因は奥のビルについてる札だ」
 「ふ~ん。りょ~か~い」
 なぜか不満そうな彼だが、大太刀を再度握りしめ、足元にいる狼を突き刺す。続いて集団に向かって横に振り払うと、風の刃が発生し数メートル幅の敵を一気に吹き飛ばした。
 一直線上に敵の姿がなくなると、前方にあるビルに向かって走りだすカーラ君。狼たちが左右から飛び掛ってくるが、長男坊は繰りだした攻撃のごとくに移動したため空振りに終わる。
 彼は所定の場所に着くと、何かをはがす動作をした模様。黒い霧は晴れていき、狼たちも姿を消す。
 視界の中にある風景だけは元の街に戻ったのだ。
 はあ、とカヌス君は、手に腰をあてアタシに左手をかざす。
 何かと思った矢先、彼の手から強い光が発せられた。包まれたアタシの体は、徐々に制服の姿に。結界をとく前に、服を戻したのだ。
 ふう、そのまま帰るところだったわね。危ない危ない。
 「はいこれ。わざわざ証拠を残してったよ」
 と、カーラ君は弟に破れた紙を渡す。切れ端となった薄黄色のひらひらした力なき物体は、相手を怒らせるのに十分だったよう。
 「いい度胸してんじゃねえか、オレたちにケンカ売るとは」
 ぐしゃ、と、手に持ったものを丸めるカヌス君。彼いわく、ここにはもう異常がないらしいので現実空間に戻る、と話す。
 目を閉じて数秒後、彼から水色の霧が発生し、辺りを包む。
 まるで竜巻みたくなった水蒸気は、一気に天へと上り、跡形もなく姿を消す。
 すると、アタシ、じゃない、私たちは雑踏のど真ん中に立っていた。
 「ん~、キョロキョロしてどうしたの~」
 「あ、いや、別に」
 「いい加減に慣れろって」
 そんなこと言われても。イキナリ風景が変わるんだからついていけないわよ。
 「不器用だね~。適当に流しちゃえばいいのに~」
 「お前がいうなよ」
 「何か言った?」
 「いーえ、なぁ~んにもっ」
 話しながら私にジュツをかける弟君。笑いながら少し殺気をだしてる辺り、お兄さんはやっぱりおっかない性格なのね。
 「時間も時間だし、歩きながら行こうか~」
 そういうと、私の荷物を取り上げて歩きだすカーラ君。はあ、とため息をつきながら、痛まない程度に歩こうぜ、と続くカヌス君。
 最後に足を動かした私は、痛くなくなっていく傷を不思議に感じながら、店へと向かった。

 

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