東京異界録 第2章 第6録

 やってきた先は、駅から徒歩15分ぐらいのところにある焼肉屋。ちょうど私の家からは正反対にあるこの場所は、大食いなら知らない人間はいないと言われるほどの人気店だった。
 当然、食べ盛りの弟、雪祥(ゆきひろ)も知っている。
 どうしてこの店に来たかというと、今までのお詫びにと、赤土(あかつち)がおごってくれることになったからだ。
 「正直迷ったんだがな。良かったよ」
 「何で迷うのさ」
 「お前はともかく、姉のほうが嫌がるかもと思って」
 「ねーちゃん、焼肉嫌いだったっけ」
 「ううん、好きだけど」
 たぶん、雰囲気的に迷ったのかもね。一応女ですので。
 「あんたも朝昼食べてないんだったらガッツリいきたいでしょ。いいんじゃない、ここおいしいから」
 オレよく来るんだよね、とユキ。ま、まあ確かに学ランじゃあマズいかもしれないわね。
 ちなみに、赤土、じゃない、須藤君は朝食べられなかった挙句、お弁当を忘れてきたらしい。そりゃお腹もすくわ。
 そうそう、彼は須藤涼太という名前なの。店に入ってから、さすがに自己紹介ぐらいはしたから。
 ここには、須藤君が私たちに話があるからという理由できたが、とりあえず腹ごしらえした後にゆっくり話すことになった。
 ここは個室式なので、周りには誰もいないから安心できるしね。
 大柄で無愛想な見た目とは裏腹に、けっこう話す彼は、ユキの話によくついていっている。やっぱり進学校だけあって、頭いいのね。きっと。
 「その姿、てっきり借りてるのかと思ったよ」
 「何でわざわざそんなことをする必要がある」
 「バレないために、とか」
 「面倒だろうが」
 「まあね~ん」
 そんなこんなの会話の中、ひと通りの食事が終わるとお楽しみに。この店はお肉だけじゃなく、デザートも食べ放題という太っ腹なところらしい。
 全員のお腹が落ち着いたところで、本題に移る。お詫びにおごる、というだけじゃないのは、学校の前で話したとおり。
 「藜御(あかざみ)には言ったが、俺も能力者の1人だ。今まで喧嘩を売ってたのは、お前が強い霊力を持ってたからだ」
 「だったら関係者だって言えばよかったじゃない。何でこんな長い間売り続けたのよ」
 「雪祥がいたからな」
 「え、オレ」
 ああ、と須藤君。ふたり一緒だと紛らわしいので、弟は下の名前で、私は苗字に呼ぶことになったのだけど。
 それはともかく、彼はユキにレイリョクが感じられなかったため、本当にこちら側の関係者なのかをわかりかねていたらしい。というのも、いわく、レイリョクがあっても普通の生活をしてる人もいるからだ、と話す。
 「霊力があるからといって、全員が異界関係者なわけじゃない。が、何故かお前たちのことは式で調べられなかったんだ」
 「ふうん、だからオレたちの周りを探ってたってワケか。怨鬼たちが活動するのは夜だから」
 「そういうことだ。藜御の霊力を狙って、いずれは奴らが来ると思ったからな」
 随分時間がかかったが、と須藤君。あれ、ちょっとおかしいな。
 「そういえば、須藤君といたときは怨鬼に襲われなかったわね」
 「そーいやあそーだね。偶然なんじゃなくって」
 「必然だろう。あの時の2人組が仕組んだんじゃないのか」
 2人組、といわれ、私たちは顔を合わせる。一瞬、誰のことだかわからなかったが、すぐに妖怪兄妹の顔が浮かんだ。
 もちろん、口外してよい内容じゃない。どうごまかすか。
 「首を絞めてしまって悪かったと思う。わざと操られなければお前たちの実力がわからなかったし」
 「ちょっと待って、あんた意識あったわけ」
 「だから早く退院できたんだろ。竜間はまだ入院中だしな」
 信じられない。とり憑かれた人間は、その期間のことを覚えていないし、数ヶ月ぐらいは動けなくなるって聞いていたのに。
 そうだわ、今更気がついたけど。能力者だからってそう簡単には回復しないのよね。なのに、須藤君はピンピンしている。
 「で? 能力者だから話があるってのはそのことなの」
 みけんにシワを寄せながら聞くユキ。それもあるが、と彼は口にすると、どういうわけか黙り込んでしまった。
 「あの2人組のことは気になるが、どうせ関わることになるだろうから後にする、として」
 「として?」
 弟の返しに対し、テーブルに両肘を乗せあごを手につける彼。彼は苦味のある表情をすると、
 「本音を言うと、すごく言いづらいことなんだが。命に関わることなんだ」
 「ど、どういうことよ」
 須藤君は眉の間にある谷間をさらに深くすると、頭を抱えてしまう。そして、ネクタイをはずし、シャツのボタンをはずし始めた。
 「ちょ、ちょっと、なにし」
 第3ボタンまではずした彼の心臓付近の肌に、見たこともない黒い模様がある。とてもまがまがしく、目にするだけで、とても怖い。
 「見えるか、藜御」
 「な、なに、それ」
 「なになに、何かあんの」
 「お前には霊力がないから見えないかもしれないな」
 彼は模様のふちを指でなぞり、ここに呪いの黒い文様がある、と言った。
 「これがお前たちに付きまとってた理由だ。この呪いを解く手がかりがほしくて、な」
 目を見開き、思わず相手の顔を凝視してしまう。どうしよう、口が震えて動かない。
 「ね、ねえ。それってどういう効果があるの」
 弟のノリが、ナリを潜める。
 「生命力をとられる呪いだ。最終的には死ぬことになる」

 

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