東京異界録 第1章 第12録

 いきなり現れた妖怪兄弟の次男坊。顔が至近距離にあることを理解するのに、数秒はかかっただろうか。
 「うわ、ちかちか、近いっ」
 「わわ、暴れんじゃねえよっ」
 足が落ち着いても、心臓の音が全身を駆けめぐっている。ああ、ホントにビビったぜ。
 「って、どうしてカヌス君がここに」
 「お前らが怨鬼とおっぱじめたときからいたぜ。様子見てたんだよ」
 さ、さいですか。
 大きく吐きだした息で、ようやく心拍数が戻っていく。ハタ、と、どうしてアタシが立っていられるのかを確認すると、先ほどの影の触手がなくなっているじゃないか。
 「も、もしかして、助けてくれた」
 「まあな。触手を消したのは伽糸粋だがよ」
 左親指で二回、ある方向をさす。すると、ユキも自由の身になっていた。カシスちゃんが薙刀をもって近くにいることから、攻撃したのだろう。
 「さ、さんきゅ」
 「礼は後で聞く。ほら、こいつなんとかしな」
 腰に手を当てながら、今度はあごで地面を示す。いつの間にやら赤い円状の中に閉じこめられた触手たちが、気持ち悪くうごめいていた。
 「紅葉、大丈夫」
 「あ、うん」
 彼女は、ゆっくりと歩きながら、声をかけてくれた。後ろには、無事なユキもいる。
 「その怨鬼(おんき)は木属性だから、雷には強いのよ」
 「えっと、確かアタシの属性も同じだったよな」
 っつーことは、五行説っていうのに当てはめると同じ属性だと傷を負わせづらいんだったな。どうしよう。
 「木属性に強いのは、ええっと、ごん、属性」
 「そ。お前の場合は爪で攻撃したほうが効果があるってこったな」
 お前の霊力使えば属性変えられるようにしたからよ、とカヌス君。細けえことはいいや、とりあえずとっとと終わらせねえと。
 アタシは右手首に左手を添え、力をこめる。すると、爪に何かが集まっていくような感覚がし、今の状態から変化するように命令した。
 すると、青緑色に光っていた手甲の先が、透きとおるような白色に変化。少しフラついた気がするが、家に帰ればいくらでも休めっからな。
 あの影が前にある赤円から出られないでいることがチャンス。狙いを定めて、中心と思われる黒が一番濃いところい突き刺した。
 耳をふさぎたくなるような悲鳴とともに、敵はどんどん小さくなっていく。
 しまいには、ちょっと大きめなビー玉ぐらいになっちまった。
 夜の静寂が戻ると、カヌス君が相手の落としたモノのところに近づいていく。
 「ちょいと面倒な奴だったな。ま、よく戦えたんじゃねえの」
 玉を拾いアタシに向かって投げてくる彼。おいコラ、こんな暗い場所で投げんなよっ。
 案の定おでこに当たり、ちっと痛えし。
 「ねーちゃん、大丈夫」
 「まあ、って。あんた、顔真っ青じゃんっ」
 「雪祥君は霊力がないから、術を受けると大ダメージを受けちゃうみたいね」
 「ほんっと、珍しいよな。大抵ちったあ持ってるモンなんだが」
 カシスちゃんがユキに向かって、赤い光を発する。彼女は霊力の流れを調整することができるので、弟も回復させることもできるんだそうだ。
 ちなみにカヌス君もできなくはないが、妹より時間がかかるらしい。
 「ユキの霊力を楓が持っちまったんかな。うーん」
 「その辺りはわからないけど。雪祥君、大丈夫」
 「うん、ありがと。カシスちゃん」
 カヌちゃんもね、とユキ。よかった、ちっと顔色がよくなってる。
 カヌス君に、オレに対ジュツの何か作ってよー、とほざいている辺り回復したんだろう。
 たくましいというか、図々しいというか。どちらとも取れなくない発言だが、さらりと口にしてしまうところがすごい。
 っと、安心しきっている場合じゃなかったな。
 「こいつら、どうしようか」
 「もう少ししばき倒して病院に送るってのはどうだ」
 どうだ、じゃないだろ。その案はっ。
 「バカ言ってんじゃないわよ、っとに。あたしが適当に記憶を作り変えるだけでいいじゃないの」
 カシスちゃん、それもちょっと違えんじゃねえのか。
 「んま、どーにしても病院に送るのが一番いいと思うよ、オレ」
 喧嘩した後の自然な流れだし、とユキ。確かに、それが普通なのだろう。一部違うが。
 「ならあたしが呼んどくから。加濡洲、楓たちを送ってあげて」
 「おう」
 「いややや、カシスちゃん。女の子を一人にするのはちょっと」
 「心配すんなって。何かあっても返り討ちにしてるから、こいつなら」
 ま、まあね、と妹さん。こめかみが引きつってるの、兄貴は気づかねえのか。つうかひでぇ言いようだ。
 「とにかく二人は休まないと。明日学校があるんだし」
 「そーいやオレたちって学生なんだよね。忘れちゃうんだけど」
 何で忘れんだよ。
 「じゃあ伽糸粋、そっちは頼んだぜ。お前ら、行くぞ」
 「あ、うん。カシスちゃん、ありがとう。気をつけてくれよ」
 「ええ、あなたもね」
 「また明日ね~」
 説得は無理と悟ったユキはそのままアタシたちについてくる。そして、ゆったりとした歩みで家に向かい、その後はまたいつもの生活に戻る。
 あ~あ、こういう非日常が続いちまって、すっかり感覚がおかしくなっているしな。
 アタシはいったい、いつになったら普通の高校生に戻れるんだか。ホント、世の中って不思議なコトだらけだとつくづく思いながら帰路についたのだった。

 

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