ドラゴンクエスト8 竜の軌跡 第5話

 綺麗に束ねられた花は、地面に落とされ形を台無しにしてしまう。しかし、立っている女性は気にもとめずこちらを見ていた。
 エイトが話しかけようとしたとき、気の強そうな見た目をしている相手の顔が変わり、
 「とうとう現れたわね。リーザス像の瞳を狙ってまた現れると思ってたわっ」
 腕を振り下ろし、戦闘態勢に入る女性。右手を顔の高さまで上げ、火の玉をつくりだす。
 「ま、待って。僕たちはただ」
 「兄さんを殺した盗賊たちめ。兄さんと同じ目にあわせてやるっ」
 投げつけられた人の頭ほどの火の玉はエイトとヤンガスが作った間を通り抜け、リーザス像に直撃する。既にもうひとつ作られていた火炎は今度はエイトにだけ投げられた。
 「くっ」
 「兄貴っ」
 ヤンガスを一瞬見たエイトは、視線で手をださないように指示する。当人は前に転がりながら呪文をよけ、女性の前に移動した。
 「僕たちは盗賊じゃない。ポルクに頼まれて君を探しにきたんだよ」
 「ふん、嘘なんて通用しないわよ。今度は逃がさないわ、覚悟しなさいっ」
 女性の両手の周りにさらに大きな炎が取り巻かれる。身体には風が巻き起こり、スカートのすそが激しく波打つほどだ。
 「やいやい姉ちゃん、誤解だって。アッシらは初めて塔を上ったんだぜ」
 ヤンガスも説得を試みるが、相手はまったく耳を貸さず、呪文の力が徐々に強まっていく。
 攻撃すれば止められるが、本意ではない。どうすれば彼女を止められるのだろうか。
 エイトはトーポを道具袋の中に入れてヤンガスに投げつけた。そして、防御体制にはいる。
 「呪文を放ったら彼女を抑えて」
 「そんな、無茶でがす」
 女性が一歩踏みだし、放とうとした瞬間。
 『ま、待て』
 旅人たちが聞いたこともない声が響く。辺りは誰もおらず、人間たちは全員、周囲をうかがう。
 『私だ、ゼシカ。私の声が、わからないか』
 「サ、サーベルト兄さんっ」
 途切れ途切れに発せられる謎の声は、アルバート家の長男らしい。部外者であるふたりは、とりあえず見守ることにした。
 『その呪文を、止めるんだ。私を殺したのは、この方たちではない』
 「止めろったって」
 もう止まんないわよっ、と大声でまるで助けを求めるように叫ぶ女性。行き場を失った呪文は放たれ、ゼシカが上体を右に曲げたことが良かったのか、見当違いの方向に飛んでいき、柱のひとつを破壊した。
 必要以上に気を使ったせいか、ゼシカは息を切らす。しかし、心はそうではないらしく、エイトを突き飛ばしてリーザス像に走っていく。
 どうやら、声は像から聞こえてくるようだった。
 炎に包まれ、それよりも真っ赤に染まっているリーザス像の瞳のためか、より神秘的に映る。
 「サーベルト兄さん、本当にサーベルト兄さんなのっ」
 『ああ、本当だとも。聞いてくれ、ゼシカ。そして、そこにいる、旅の方々よ』
 消え入りそうな声は語る。リーザス像が彼の死の間際に魂のかけらを預かってくれたことを。そして、音は魂のかけらから発せられていることも。
 ヤンガスの手を借り立ち上がったエイトは、ふたりで像に近づく。
 『像の瞳を、見つめてくれ。そこに、真実が、刻まれている』
 促された3人は、目の宝玉に吸い込まれるように見入った。
 気づくと、リーザス像から部屋を見渡す視点になっていた。
 そこに、1人の青年がこの部屋へとやってくる。用心棒らしく、剣とよろい、かぶとをまとった、堂々とした青年。
 塔の扉が開いていたことを不審に思い、様子を見に来たサーベルトだった。
 意志の強い瞳をした彼は、階段の踊り場で周囲を見渡し、異常がないかを確認する。
 そして、階段のほうへ目をむけた途端、背後に不気味な雰囲気を感じとった。
 長身長髪の男で、杖を持っている。
 金属音をだしながら、
 「だ、誰だ、貴様はっ」
 「悲しいなあ」
 「な、何だと。質問に答えろ、貴様は誰だ。ここで何をしているっ」
 不敵な声で笑いながら、
 「我が名はドルマゲス。ここで、人生の儚さについて考えていた」
 「ふざけるなっ」
 何度も剣を抜こうとするが、仕事を拒否するように動かない剣。収まったままの剣に、サーベルトは焦る。
 「どうしたことだ、剣が、剣が抜けん」
 「くっくっく、悲しいな。君のその勇ましさに触れる程、私は悲しくなる」
 意味不明な言葉を発しながら、男は杖をサーベルトにむけた。杖の先から2つの光が出た瞬間、またしても異変が起こる。
 「き、貴様、何をした。くそっ、身体が動かんっ」
 彼の目にはひとつの感情しか浮かばなかった。右に、左に、消えながらこちらにむかってくる、人ならざる者の動きをする人間。ましてや自分の見たこともない不明な力を使う者だからだ。
 負けじとにらみ、
 「おのれ、ドルマゲスと言ったな。その名前、決して忘れんぞっ」
 「ほう、私の名を忘れずにいてくれるというのか。何と喜ばしいことだろう」
 左腕を広げ、
 「私こそ忘れない。君の名はたった今より、我が魂に永遠に焼き付くことになる」
 ゆっくりと、引き延ばすように、
 「さあ、もうこれ以上、私を悲しませないでおくれ」
 「くぅっ、貴様ぁああっ」
 男はサーベルトを抱きしめ、杖を強く握る。
 そして杖が、生命の光をかき消した。彼の魂は男の得物に奪われ、抜け殻となった身体は力なく床に落ちる。
 杖は言葉にならない歓喜の声を上げるように全身が輝いていた。
 男はしゃがみ、大切な客人を招くようなそぶりをし、しばらくサーベルトの顔を見つめる。
 「君との出会い、語らい、その全てを我が人生の誇りと思おう。君の死はムダにしないよ」
 よろよろと立ち上がると、とりつかれたように高笑いをする。杖がまた光を発し、背中をそらせ両手を天井にむけて笑う姿。もはや常人ではない。
 男はそのまま姿を消し、サーベルトの亡骸だけが横たわる。
 無念の死を遂げた者の怒りなのか、男の異常な力のせいなのか、外はずっと、雷が鳴り響いていた。
 意識が各々に戻ると、燃え盛っている像が目に飛びこんでくる。
 『旅の方々よ、リーザス像の記憶、見届けてくれたか』
 「ええ」
 『良かった。私にもわからぬが、リーザス像は、そなたが来るのを、待っていたようだ』
 「僕を」
 身に覚えがない。エイトもわからないが、ドルマゲスを追っているからだろうか、と考えた。
 『願わくば、リーザス像の記憶が、そなたの、旅の助けになれば、私も報われる』
 旅人のリーダーは、右手にこぶしを作る。
 『ゼシカよ、これで我が魂のかけらも、役目を終えた』
 お別れだ、と声がいったとき、ゼシカは泣きそうな表情で、首を左右に振る。
 「いやぁっ。おねがい、いかないでよ。兄さん」
 今は晴天になった空は静かで、冷たい空気がほてった身体を冷やす。先ほどとは打って変わって、穏やかだ。
 『ゼシカ。最後に、これだけは、伝えたかった』
 これからも、母さんは、お前に手を焼くことだろう。だが、それでいい。
 お前は、自分の信じた道を進め、と。
 『さよならだ、ゼシカ』
 妹の名を呼ぶと、リーザス像の炎が消えた。変わりに、小さな光の玉と光の筋がいくつも像を包み込む。
 言葉にならない気持ちの代わりに、ゼシカは光に腕を伸ばし、上っていくそれをつかもうとした。
 できないことがわかると、彼女はそのまま顔を覆い、泣き崩れる。
 「ふーむ、何たることじゃ」
 あのサーベルトとやらを殺したヤツめは、間違いなくドルマゲスじゃっ、と、聞きなれた声がエイトの耳を直撃する。
 「おっさん、いつの間にっ」
 本当にいつの間に来ていただろうか、と、青年も目を大きく見開いてしまう。
 トロデ王は気にせず、
 「何故かはわからんはサーベルトとやらもまた、わしらにドルマゲスを倒せと言っておるようじゃ」
 家臣はうなずく。
 「ふむ、彼の想い、決して無駄にはできんな」
 様子を見にきたのか、それとも暇だったのか、真意はいまひとつだが、トロデはヤンガスのほうをむき、わしは馬車で待っておるぞ、と告げる。左手を床と垂直に上げ
 「じゃっ」
 と、階段に走っていった。
 元の静寂が戻ると、エイトはゼシカに話しかけようとする。だが、相棒が珍しく止めにはいった。
 「今はあの姉ちゃんをひとりにしてやるでげす」
 「うん、そうだね」
 もう一度ゼシカを見た兄分は、弟分の助言に従うことにした。大切な人を失う気持ちは、彼もわからなくはない。
 引き返そうとしたふたりを、今度はゼシカが止める。
 「あ、ねえ」
 立ちながら声をかけた彼女は、少しうつむきながら、
 「名前もわからないけど、誤解しちゃってごめん。今度、ゆっくり謝るから、だから」
 顔を覆って座り込み、願いでる。
 「だからもう少し、ひとりで、ここにいさせて。ごめん。少ししたら村に戻るから」
 最後のほうは相手にほとんど聞こえなかったが、何となく察し、
 「ちゃんと戻ってくるならいいんだ」
 先に行くことを伝えると、エイトたちは塔を後にした。
 既に日が暮れており、塔の探索や出来事からの疲れから、彼らはルーラを使ってリーザス村に戻ってきた。旅を始めてからというもの、城で得た知識や呪文などが身につき始めているのだった。
 「さて。ポルクのガキに伝えてやりやしょう」
 「うん。夜遅いけど、どこにいるんだろう」
 とりあえずアルバート家にいってみることになったふたりは、途中にある宿屋の前で目的の人物を見つけることができた。
 少年はエイトたちの姿を見ると駆け寄ってきて、
 「帰ってきたか。遅いから心配してたんだぞ。で、ゼシカ姉ちゃんはっ」
 前のめりに聞いてくるポルク。唯一の跡取りになったゼシカに何かがあれば、村が終わることを子供なりに理解しているのだろう。
 エイトは塔で起きた出来事を伝える。
 「そっか、塔でそんなことが」
 彼は心配そうにしていたが、本人が帰ってくるって言ってたならきっと大丈夫だな、と納得したようだ。
 「エイト、ヤンガス、とにかくありがとな。色々あったけど、おいらはお前らのことちょっとだけ、そんけーしたぞ」
 偉そうな物言いだが、不思議と悪い気はしないふたり。思い出したように、
 「お前たちが戻ってきたら宿屋に泊めてもらえるように、ちょうど今お願いしてきたとこだ」
 「ほお」
 「マルクとふたりでこづかいはたいたんだからな。しっかり感謝して泊まれよ」
 扉の前をあけるポルク。
 エイトはお礼をいい、静かに扉を閉めた。
 「アッシとしたことが、人を見かけで判断するという愚を犯していたでがすよ」
 クチは悪いガキでがすが、結構律儀でかわいげのある性格をしているでがすよ、とご機嫌なヤンガス。エイトは現金だなぁと思いつつ、確かにと感じた。
 宿屋の女将さんに声をかけると、おなじみの挨拶を口にする。
 「ポルクから話は聞いてますよ。今日はもうお休みになりますか」
 「ええ、お願いします」
 「ではぐっすりと、お休みください」
 部屋に案内された冒険者たちは、荷物を置き、疲れを癒した。
 よほど疲れていたのか、金属音が聞こえていた気がする翌朝。頭と身体はスッキリし、荷物を持った。
 「よくお休みでしたね。では、いってらっしゃいませ」
 女将に見送られた旅人は、アルバート家に足をむけた。
 屋敷にはいるなり怒鳴り声が空気を貫く。ふたつの声がぶつかっているようだ。
 上から聞こえてくるのでそちらに足を運んでみると、ゼシカとアローザがむかいあいながら言いあいをしているよう。こちらは階段から見ているので、娘の後ろ姿しか見えない。
 母子の口げんかは度々起こるらしいが、やはり気持ちの良いものではない。できることなら止めようと思い近づこうとしたとき、
 「おいおい、君ぃ。取込中だ」
 話なら後にしなよ、とゼシカのフィアンセであるラグサット。視線を女性たちに戻すが、彼の言うとおりにした。
 まるでタイミングを見計らったかのように、アローザがもう一度聞きます、と口にする。
 「ゼシカ、あなたには兄のサーベルトの死をいたむ気持ちはないのですか」
 回答者はため息をつく。
 「さっきから何度も言ってるじゃない。悲しいに決まってるでしょ」
 ゼシカは腰に手を当てつつ、堂々と、お母さんとは気持ちの整理のつけかたが違うだけ、と言い放つ。
 「私は兄さんのカタキを討つの」
 「カタキを討つ、ですって」
 信じられない、といった語尾だが、みるみるうちにアローザの雰囲気が変わっていく。せき止められていた水が一気に噴出するかのように、
 「バカを言うのもいい加減にしなさい。あなたは女でしょっ、サーベルトだってそんなことを望んでいないはずよ」
 今は静かに先祖の教えに従って兄の死をいたみなさい、と内容とは真逆の口調で声を荒げる母親。娘も負けじと、
 「いい加減にしてほしいのはこっちよ、先祖の教えだの家訓だのってそれがなっだってのっ」
 右足で地面を踏みつけ、勝気な容姿がより似合う状況になっていく。
 「どうせ信じやしないだろうけど、兄さんは私に言ったわ。自分の信じた道を進めってね」
 彼女の信じた道とは、鎖でつながれた家の中ではなく、己が感情に従った行動であった。どんなことがあっても必ずカタキをとる、と、女性とは思えない勢いだった。
 アローザは黙りこんでしまう。呆れて、ではなく、何を言っても意志を変えられないと悟ったのだろう。
 母親は顔を上げ、
 「わかったわ、それほど言うなら好きなようにすればいいでしょう」
 ただし、と、表情を先程のに戻して、
 「私は今から、あなたをアルバート家の一族とは認めません。この家から出ておいきなさい」
 「ええ、出ていきますとも。お母さんは気が済むまで引きこもっていればいいわよ」
 振りむきざまにハイハイという感じで左腕を動かすゼシカ。大またで部屋へ歩いていき、番をしている子供たちに、
 「ポルク、マルク、荷物を取ってくるから通してっ」
 剣幕に負けたのか、飛び上がりながらどく子供たち。乱暴にしめられた扉に合わせても足を浮かせてしまうのは、怖がっているからだろうか。
 しばらくすると、肩をだし胸元が開いた紫色と赤いスカートの服を着た本人がでてくる。扉の前で半回転をし、その場にしゃがみこんだ。
 「ポルク、マルク。色々とあんたたちのことを利用しちゃってごめんね」
 「ゼシカ姉ちゃん、本当に村をでて行っちゃうの」
 視線を合わせず、彼女のいない方向に顔をむけるポルク。心なしか、唇をかみしめているようにも見えた。
 「うん、だからこれからは、あんたたちふたりがこの村を守るのよ」
 マルクはこらえきれず、泣き出してしまう。ゼシカは慕ってくれる子供の頭をなでながら、泣かないの、とささやく。
 「サーベルト兄さんがよく言ってたわ。ふたりは将来、村を守る立派な戦士になるだろうって」
 立ち上がりながら、
 「さあ、ここの見張りは終了よ。これからは外の見回りをよろしく」
 イエッサー、と、敬礼をし、走っていく子供たち。片方は泣きじゃくりながらも、元気よく駆け下りていった。
 そして、再び表情を変えたゼシカは、アローザの元へ。
 「それじゃあ言われた通りに出ていくわっ」
 うっとうしいものを左腕で払いのけるように動かしながら、お世話になりました、ごきげんようっ、と1階へ降りて行ってしまった。

 

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