不思議な夢の物語 ミナレスの涙

 まったく、フィリスの奴ひどいよな。いきなり殴ることないじゃないか。
 まあ、母ちゃんの鉄拳のほうが何百倍も怖いけどな。すごく痛いし。
 当然っていやあ、そうなんだけどさ。
 それはそうと、いったいどこまで続いているんだろうか。かれこれ半刻は歩いているような気がするんだけど。
 『歓迎されてないみたいね』
 「のわっ。い、いきなり話しかけんなよ」
 『失礼ねっ、せっかく教えてあげようと思ったのに』
 透きとおって見える頭から湯気をだしている何者か。全身がほのかに緑色がかかっている、人間の頭ほどの大きさの幼い女の子の姿が、ふわふわと浮いていた。
 ああ、ちなみにこれはオバケじゃないよ。風の妖精グリシェといって、風のあるところならどこにでもいる自然の守護者なんだ。
 『幻術がかかってるのよ』
 「幻術って魔法の一種だよな。どうすればいいんだよ」
 『このテのは道具を使ってるから、それを壊せば大丈夫よ』
 「そうなのか。よし、探してみる」
 たいまつを頼りにしながらその場から円を書くように動くが、とくに何の変哲もない土のかたまりだ。
 俺はふり返り、
 「道具ってどんなのだ」
 『ん~、時と場合によって違うから何ともいえない』
 「何だよそりゃ、探しようがないじゃんか」
 『私がわかるから大丈夫だってば』
 と両手を腰にあてていばるグリシェ。今まで歩いてきたところにあったりしたらタダじゃおかないからな。
 『どこか脇道とかないかしら。このまままっすぐ行っても入れないわよ、きっと』
 脇道かぁ。掘るしかなかったりして。
 こういう場合はあれだ、適当に壁でも攻撃すれば道がひらけるってヤツだな、うん。
 ということで、試しに右側の壁をけってみる。だが想像以上の固さに俺の足が悲鳴をあげてしまった。肉体より剣のほうがよかったらしい。
 『何してんの』
 「いやー、何かアクション起こしたらいいんじゃないかな~って」
 『あんたって本当にバカね。そこがいいんだけど』
 ほめてるんだよな、これ。
 気をとりなおし、たいまつを左手にもちかえて、肩から剣を抜き壁にむかって斬りつける。あまり力を加えられないせいか、土が少しだけ落ちる程度にしかダメージを与えられない。しかも片手しか使えないからしょうがないだろう。
 上から下、左から右、あるいはそれらの逆や角度を変えたりしながら振り細かな傷をつけていくと、やがてパラパラと崩れていく。
 俺一人ならとおれそうな高さになった穴には、同じ目線の高さに張られた紙があった。
 『やったじゃない、これが幻術の道具よ』
 「破ればいいのかな」
 『燃やしたほうがいいよ』
 そっか、と返事とお礼をし、たいまつを近づける。身を縮こまらせながら、紙は姿を消した。
 数秒後だろうか。視界がたいまつなしでも見えるほどの明るさになり、巨大な竜が描かれた扉が出現する。頼んでもないのに重い腰を上げてくれた扉の先で、石造りの広間らしき部屋に出迎えられた。
 俺はたいまつを激しく上下にふり役目を終わらせた後、冷めるのを待った。しまっても問題ないようにすると、中へと入っていく。
 扉とぶつからない程度まで進むと、侵入者と判断されたらしく、閉じこめられてしまう。
 うわ~、マジかよ。どうすんだよ、この状況。
 「進むしかないカンジ」
 『今さら何言ってんの。さっさと行くよ』
 頼もしい相棒だな、まったく。元々秘法を手に入れるためにきたんだから、前に行く以外ないんだけどな。
 俺は剣を握りしめ、足音を立てないように気をつけていった。
 誰もいないはずなのに明かりがともっているのを不思議に思いながら、俺は部屋の中央へとやってきた。上へと続く階段が見えるが、その足元にはどう見ても幼なじみとは違う姿が見える。
 でで、でやがったっ。
 『ミナレスの涙を持つ者よ』
 「へ」
 『そなた、何をしにここへと参ったのだ』
 話してる、俺、ユーレイと話しちゃってるんだけど。
 「み、三つの宝石を集めるとイイコトがあるって聞いたから」
リュイたちは魔法の知識をもっているから、専門用語を解読することができる。だが、俺はまったくわからないため、かいつまんで解釈するとこうなるのだ。
 『良い事かどうかはわからぬぞ。それに、そなたに扱える代物でもないかも知れぬ』
 「だったら使える奴にあげればいいことじゃん」
 『せっかく取りに来たのに人に渡す、というのか』
 「うーん、俺一人じゃ決められないし」
 『ほお、やはり仲間がいるのだな』
 やべ、リュイたちのことがばれちゃったよ。頭いいな、このユーレイ。
 「とにかく、腕試しもしたいんだよ」
 『ふふ、良かろう。そなたなら、気に入られるかもしれん』
 何いってんだ、このおっさん。
 『ここを通れるものなら通ってみるが良い』
 そういったユーレイは、姿を消すと同時に何かを呼びだした。天井まで届きそうな石の魔物、ガーゴイルだ。
 口から水鉄砲を吐きだしこちらを攻撃してくる。右側に飛んで難なくかわし相手の足を狙う。
 石であるがゆえに、あまり効いていないようだ。石像は、グルルとなき、俺をイカクしてくる。俺が剣士だとわかったからだろう。
 確かに物理攻撃は効きづらいだろう。そう、ただの武器では、ね。
 「グリシェッ」
 『あいよっ』
 自らを中心に、呼吸ができる範囲に風をまとわせ、天井を突き破るかのように大きくしていく。動きが鈍い敵はモロに突風のあおりを受け、倒れこんだ。
 寝転んだところを見計らって風を止め、今度は剣に風の鞘をつくりだす。長さも威力も倍になった剣は、普段より軽くなっていた。
 頭上にジャンプした俺は、
 「奴の急所は」
 『二か所あるよ、頭と心臓部分』
 はじめに頭の部分を突き刺し、顔ごと粉々にする。手足をじたばたさせて攻撃してくるが、もはや視力のない魔物の攻撃があたることはなかった。
 ガーゴイルの体に上りながら作った風の剣がトドメを刺す。初めから何もいなかったかのようになった広間には、どこからか拍手が送られていた。
 『なかなか見事。さあ、進むがいい』
 拍手が消えると、階段の手すりにまぶしくない太陽をこぶしほどに小さくした明かりがともされる。
 妙なおっさんの声は、それから聞こえなくなった。
 「なんだったんだ、あのユーレイ」
 『さあ』
 特殊剣を使える俺にとっては敵ではなかったが、知っていたのか知らなかったのか、口調からはわからない。
 ちなみに、俺がミナレスの涙を持っていたのはただの偶然だ。先生の持ち物の箱を壊してしまい、話したら超しぼられたあげくに、数日間管理することになってしまったんだ。しかもこの宝石はいわくつきで町でも有名なモノ。そんな物騒なモンを持たすなっての。ウチの先コウは。
 んま、この宝石の伝説はよく知っているからさ。ガラにもなく図書室に行って詳しく調べていたところ、リュイが合流してきて、偶然とおりかかったフィリスを引きこんで一緒に調べてたワケ。
 いや~、まさか魔法のことがからんでくるとは思っていなかったからさ。そっちのほうはまったくわかんないんだよね。専門外だし。
 ちなみに特殊剣については偶然じゃなく血筋の関係。家は風をつかさどる司祭の末えいらしく、剣を使う人はグリーソーズマンに、魔法を使う人はグリーメージっていわれてるんだ。
 っとと。のんびりしてる場合じゃないよな。
 とりあえずとおれるようになったので、リュイとフィリスに合流しよう。考えるのはそのあとだ。
 剣をしまい、俺は上の階を目指した。

 

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