不思議な夢の物語 エピローグ

 『ありがとうございます。これで安心して暮らせます』
 「暮らすってここでですか」
 『ええ。わたくしたちには役目がありますから』
 「確かに。あなたのような美人がいなくなっては美のそうしっ」
 リュイのわき腹に異性からのひじ鉄が入る。腰を直角にして頭をさげながらお礼を口にした執事が、目を丸くしてしまっていた。クガクは何事もなかったかのように、
 「コイツはほっといてください。役目って秘法を守るためですか」
 『そうだ。ある方との約束でな』
 『我が輩たちは昔、とてもお世話になったのだよ。そのご恩を少しでもお返しするために、守らせて頂いていてな』
 「すごいですね」
 『すごくはないさ。使命だからな』
 『お前たちはよくやったぞ、我が輩がホメてつかわす』
 祖父に頭をつかまれる少年。同じ年頃の弟がいるフィリスは、思わず笑ってしまった。
 『わ、我が輩をわらったなっ』
 『いい加減になさい、まったく』
 母親に怒られ、さすがに大人しくなる。やれやれ、と父親は、
 『妻が君たちには約束をしたそうだな。私についてきなさい』
 五名の幽霊と三人の人間は、ともに二階の大広間へとやってくる。初めて訪れたときとはちがい、部屋の奥まで明かりがともされ、よく見えていた。
 入り口とは真逆の位置までやってくると、壁に貼りつけられているような剣がある。それを中心に四方へと透明の血管が張りめぐらせているような図だった。
 また、壁には彫刻もされており、ひとつの芸術にも見える。
 『これが秘法だよ。この剣は新しい主を待っているようでな』
 「へええ、すっごい剣だな」
 「そうなの。あたしには大きな剣にしか見えないけど」
 「オレも同じく。まあ、その辺のとは雰囲気が違うってことぐらいはわかるけどよ」
 と、一番詳しいクガクに聞いてみようと思ったリュイだが、あまりに呆然としているので、声をかけなかった。
 『君の剣も珍しい。神殿の子かね』
 「え、ま、まあ」
 クガクは返答に困った。血筋をさかのぼればそうらしいのだが、建物自体は数百年以上前になくなっているからだ。
 「ところで、ずっとここにあるんですか」
 『そうだな。どれぐらいあるかはわからんがの』
 『前回の戦争で使われていたそうですわ』
 「前回のって、七百年ぐらい前じゃなかったっけ」
 「でかいのはな。ちっこいのならいくらでもあるだろ」
 どれを指しているのかは、三人にはわからない。だが、関連しているモノが目の前にあることに、妙な気持ちに襲われた。
 「今でも魔物が増えてきて大変だってのに、戦争なんかカンベンしてほしいわ」
 「ここまでくることはないだろ。心配しすぎだって」
 「それにうちの母ちゃんがいるんだ。めったなことは起こらないって」
 リュイとフィリスは、たしかに、と二度うなずく。世界レベルで名が知られている彼の母親は、屈指の剣士であり正統なグリーソーズマンなのだ。
 クガクは再び剣に視線を戻す。彼はなぜかそのまま手を伸ばし剣に触れようとする。
 「ちょっとクガクッ」
 銀色に輝く本体をさらに強化するかのごとく発せられた淡く黄色い光は、三人の意識を奪うのに十分だったよう。
 触れようとした者は罰せられるのが定めなのか、クガクは思い切りかたい何かに頭をぶつけた。上半身を起こし、後ろの髪の毛を触りながら見渡す。
 「ど、どこだここ」
 窓からは太陽がきちんと挨拶をしており、小鳥の合唱すら聞こえる。
 周りにあるのは、散らかった机や半開きのクローゼット。そして、剣の刃を手入れするために使う道具、ちょっとした遠出に使う武具に道具袋。
 すぐ横にはシーツがとれかかったベッドがある。また、それらを囲う木でできた壁。
 そう、ここは、彼の部屋だったのだ。
 「あ、あたまからおちた、のか」
 後頭部をさすりながら、今だに状況が理解できていない様子。ベッドにもたれて座りなおし、ぼんやりとしていた。
 「クガク、いつまで寝てんだい。早くマキ割んないと遅刻するよっ」
 毎朝聞く声。まばたきを数回したあと、クガクはあわててカーテンを開け放ち、太陽を見た。
 「やっべ、もうこんな時間かよっ」
 そして、彼は日常へと戻っていく。
 着替えや朝食、まき割りや顔を洗うなど普段どおりの生活行動。急いで部屋に戻り準備をし、かばんと剣を確認する。
 かばんの中には、たしかにミナレスの涙があった。
 クガクは不思議に思いながらかばんを閉じ、玄関へと直行する。
 やけに現実感のあった夢は何を示すのか。
 クガクは走りながら幼なじみに聞いてみようと思ったのだった。

 

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