ドラゴンクエスト8 竜の軌跡 第20話

 罠にはまったヤンガスをおって下の階におりたエイト。無事に弟分と合流して地図も手に入れることができ、すぐにゼシカとククールとも会うことができた。
 剣をしまいながら、ククールは舌打ちをし、
 「まったくふざけた扉だぜ。下手すりゃこのオレの美しく高い鼻がつぶれちまうところだったんだぞっ」
 そんなことになったら世界の損失だ、そんなこと許されることじゃないぜ、と聖堂騎士団員。今に始まったことではないが、やはり自分の容姿に自信があるようだ。
 「はあ。私この洞窟を作った人とは、絶対友だちになれそうもないわ」
 気障男の言葉をため息で返すと、令嬢も本音を語る。どうやら、ここを建設した人間性を疑っているようだ。
 「これだからこの洞窟は油断ならねえんでがす。アッシが昔諦めたのも無理ないでげしょ」
 少々、間があき、
 「オレはあんたの学習能力のなさのほうが恐ろしいぜ」
 もはやエイトは、苦笑いしかできなかった。
 それぞれの無事を改めて確認したエイトは、地図を片手にもう一度この階を調べたあと、キトンシールドをゼシカに渡しながら慎重に地下へおりていく。
 時折ヤンガスが仕掛けらしき場所に手をだしてしまうが、よくできた扉の絵だったり、開けても壁だったりと、かわいらしいモノであったため問題はなかった。
 また一見、銅像に通路がふさがれていると思いきや、横から押せば動かせたので難なくクリア。先が見えていたのもあり、トラップといえるかどうかもエイトには微妙に感じる。
 さらに地下へ進むと、今度ははね橋がある少し広い部屋へとでる。見渡すもスイッチらしいところはなく、銅像があるだけだった。
 「ねえ。ここだけ色が違うわ」
 周囲を調べていた一行は、ゼシカの元に集まり、同じところを見る。確かに異なっており、よく見ると段差があるようだ。
 段差、という単語に引っかかったリーダーは、今たっている場所が、ほかの場所より少しだけ低いところにあることに気づく。そして、ご丁寧に色の違うブロックで囲まれているのだ。
 そして、近くには銅像がある。
 エイトは、仲間に離れてもらうようにいい、自身の右足で床を押した。するとほこりを舞わせながら、橋はゆっくりとおりていく。
 しかし、全員が近づこうとした瞬間、意地悪されてしまった。どうやら解除されてしまったようである。
 「どうなってるのよ」
 「エイトが踏んだ場所がスイッチになってて、そこには重りがないといけないってことか」
 「よし、ここは兄貴のためにアッシが」
 「いや、そこの銅像を置けば大丈夫だよ。人間の重さで動くから」
 「わかりやした」
 指をならしながら、近くにあった重石代わりを動かし、仕掛けの床におく。すると、先程と同じ動きをするが、元に戻ることはなくくなった。
 地図によると、ここからはほぼ一本道のようなものだった。構造上曲がりくねってはいるが、上の階にくらべれば壁伝いでも部屋につけるあたり、そういっても差し支えないだろう。
 だが、やはりここでも仕掛けが待っていた。色の違う床と銅像が2体ある。
 エイトは、またか、と思った。ミーティア姫を一刻も早く助けだしたい気持ちだけが走っているようで、心もとなかったのだ。
 とはいえ、彼はこのパーティーの司令塔。必要以上に感情をだすわけにはいかなかった。
 一部のはやる気持ちを抑えて、一行は部屋をくまなく捜索し始める。
 「うわっ」
 「あ、え、エイトッ」
 ゼシカたちが部屋を見ると同時に、ゴンッ、という何かがぶつかった音が響き渡る。しかも、呼ばれた本人が天井から降ってきたではないか。
 「あいてててて。て、鉄かぶと、かぶっといてよかった」
 「だ、大丈夫でがすか、兄貴」
 うん、と返事をする彼に手をさしのべ、たたせるヤンガス。
 「おいエイト。何でお前、上から降りてくるんだよ」
 「わ、わからない。気がついたら頭をぶつけてて」
 頭をさすりながら答える彼に対し、年上の青年は、ふうん、とあごに手をやる。その視線の先には、石版らしきものがあった。
 「天をあおげ、されば道は示されん、か」
 だとよ、エイト、とククール。妙に決めポーズが決まっているのは、美形の特権なのだろうか。
 まだぶつけた衝撃を引きずっているのか、ぼんやりしているエイトをはじめ、何のことやらと思っているヤンガスとゼシカに対し、わざとらしく両手を広げながら、
 「どうすればいいのかわからない時は、視点を変えることが大事だなんて、よく言うよな。しかし実際迷ってる時ってのは、それすらも難しいもんさ」
 天を仰ぎたくなってくるぜ、まったく、と口にした。
 まばたきを数回したエイトは、いわれたとおりに見上げてみる。部屋にあるたいまつのおかげで視界がきれいになっており、石版の意味がようやくわかった。
 問題はどうやってあそこまでたどりつくか、だが。それはエイトがすでに経験済みである。
 改めてたっていた場所を見ると、銅像が2体あって、それらの足元には、意味ありげな溝がある。試しに動かしてみると、溝の方向には動くが、それ以外は動かせないようだった。
 しかも、もうひとつの像もそのように動き、床は大きなパネル状。遠くからこの場所を見ると、銅像の剣の先を一直線上に結ぶとその場所になるのかもしれない、と感づいた。
 エイトはヤンガスに考えを伝え、天井にある穴の位置にあるパネルにあわせて銅像を配置。リーダーが乗ってみると、床が勢いよく盛りあがり乗った人間を上の階へと押しやってしまった。
 「よっしゃあ。さすが兄貴でがす」
 「ここには魔物がいないみたい。みんなもおいでよ」
 残った3人はうなずきあい、順番にエイトの元へと集まっていく。
 全員が集まると、彼は笑顔で、
 「ククール、ありがとう。君のおかげだ」
 「そ、そんなことないさ。あの時天井に激突したのがオレじゃなかったからわかったんだよ」
 仕掛けには驚いたがね、とククール。ガラにもなく照れたのだろうか、
 「もう少しでオレのこの明晰な頭脳がダメになるところだったんだぜ。まったく、この洞窟を作った奴も危険な仕掛けを考えてくれたもんだよ」
 「ぷっ、何よそれ。ひねくれてるわね」
 「おーい、兄貴。ついにやりましたぜ」
 いつの間にかヤンガスは前にある階段へとのぼっており、手をふっている。ゴールだろうところには、ひときわ立派な宝箱がおいてあった。
 周囲を警戒したあとに開けた元山賊の手の中には、美しい涙の形をした青い宝石がある。
 「こいつがビーナスの涙、か。とうとう手に入れてやったぜ」
 エイトが近づいてきたことに気づいた弟分は、
 「兄貴、実はね。アッシが昔この洞窟に挑んだのは、あのゲルダの為だったんでがすよ」
 「そうなんだ」
 少し遠くを見ながら、ヤンガスは、今でこそゲルダとは単なる商売敵でしかないが、彼にも青い過去があったという。そのときのゲルダはおっかない感じではなかったのだとか。
 「正直、ちょっと憧れてたんでさあ。それであいつが欲しがってたビーナスの涙を取りに来たんでがすが、結局ケガして逃げ帰るだけでがした」
 彼は今になって、しかも形を変えて手にするとはみじんにも思っていなかったよう。
 そして、当時の心情を形にしているかのような宝石を視界に招くと、あのときに入手していたらどうなっていたのか、と思いをはせる。
 「おっと、今の話は他言無用でがすよ。アッシの苦い青春メモリーでげす」
 「わかったよ」
 エイトは複雑な気持ちになった。ヤンガスのいうとおり、すでにゲルダのものになっていたのなら、おそらく彼とは出会えなかったかもしれないからだ。
 「どうしたの、って。それがビーナスの涙なのね」
 やはり女性だからか、ビーナスの涙に釘づけになるゼシカ。女盗賊が執心する理由がわかったらしい。
 「これを見てたら渡すのが惜しくなってきちゃったわ。早くゲルダさんに渡しちゃいましょ」
 「うん。これでようやく姫を取り戻せる」
 やっと顔の筋肉を少し緩められたエイト。一行は階段をおり、ゼシカのリレミトで脱出しようとした矢先。
 最後尾にいたククールが何かに気づいて宝箱のほうに視線をやる。エイトたちも、強大な何かがやってくる気配を察知。
 「ゼシカ、急いでだ」
 『返せぇ~、ビーナスのぉ~』
 部屋に響き渡る怨念めいた声は、地響きを起こし、宝箱を魔物化させる。箱がフタと本体に分離され牙がつき、それらを舌の長い骨の魔物がつなぎとめている。
 「ト、トラップボックスでげす。宝石を守る魔物でがすよっ」
 「急げゼシカ。あれはタチが悪ぃぞ」
 「ダメッ。魔法が無効化されるわ」
 「何だってっ」
 『返せぇ~、ビーナスのぉ~』
 「うわ、来たっ」
 一行はとっさに下の階へと飛びおりる。人間ひとりしかとおれない幅しかないため、ほっとひと息つく。
 しかし、相手は相当執念深いらしく、床を攻撃し破壊し始めたではないか。
 「こ、こりゃあやべえな。逃げるでがすっ」
 「通路に行こう。いくら何でも壁までは壊さない」
 「どうだかな。どちらにしても走って逃げ切るしかねえ」
 「わっ。もう来ちゃう」
 そんなに取られたくないなら、棺桶までもって行けばいいじゃない、とゼシカ。まったくだ、と思いながらも、エイトはヤンガスからビーナスの涙を走りながら受けとり道具袋の中へ。
 そして、ククールが予測したとおりトラップボックスは同じセリフを繰り返しながら壁を破壊してきた。
 「こんな狭いところじゃ大きな呪文が使えないわ」
 「表に出よう。それから勝負したほうがいい」
 「おお、追いつかれるでがすよ」
 橋を落とすも大した時間稼ぎにならなかったらしい。上の階にあがると、今度は階段の役目を終わらせてまでのぼってくる。
 「くっ」
 エイトはギラをとなえ一瞬ひるませたあと、近くにあった柱をかえん斬りで2本倒す。すぐにパーティーと合流したのち、ヤンガスと力を合わせて銅像で通路をふさぐ。
 当然これは応急処置なので一行は休む間もなく入口へと急ぐ。10数秒後には、すでに敵の姿がうしろにあった。
 それでもリーチを稼いだ分、また、ほかの魔物にも会わなかったこともあり、ようやく地下1階へとやってきたエイトたち。とおってきた扉を先頭のククールがけり破り、地上への出入口へと急ぐ。
 『返せぇ~、ビーナスのぉ~』
 「しつこいわね。そういう男は嫌われるわよっ」
 「男なのか、ここ作ったの」
 「そんなことより早く走って。ここは広いから飛んでくるかもしれな」
 エイトがいい終わるとほぼ同時に、トラップボックスは最後の障害を破壊する。だが、自体は悪い方向へとむかい、一気に追いつかれてしまった。
 跳躍した相手は着地と同時に地面を揺らし、階段から外にでようとした人間たちの足止めをしようとする。
 その前にかろうじて洞窟を脱出したエイトたちは、入口にあった像を武器でなどで砕き入口を封印。もはや誰も通ることはできない状態になった。
 だが、考えが甘かった。先を急ごうとした一行は、がれきの中からはいあがる魔物の姿を見たのである。
 『返せぇ~、ビーナスのぉ~』
 そう口にすると、一番手前の盗人に怒りの対象を放つ。
 「危ないっ」
 銀色の髪が目の前におどり、持ち主は何が起こったのかわからなかった。だが数秒後、目の前には、何かに貫かれているエイトの姿が、映っていた。
 「兄貴っ」
 「エイトッ」
 「な、な」
 舌を剣のように固くしたそれは、エイトの右胸からでており、放った魔物がひきぬくと、ほかの仲間へと襲いかかっていく。
 しかし、彼はトラップボックスの背中を捕らえ、細身からは想像できない力でいかせまいとする。
 そして、道具袋をククールに投げ、皆に逃げるように伝えた。
 「早く。しんがりは僕がやる」
 「何言ってるでがすか。アッシも戦いますぜ」
 「そうよ。私も戦うわ」
 「駄目だ。こいつはビーナスの涙を持つ人をどこまでも追いかけるみた」
 エイトを振りほどき、ゼシカ、ヤンガスと攻撃され、敵のスピードもあってふっ飛ばされるふたり。また、ククールも慌ててバギマで対抗しようとしたが、間に合わず足に大怪我を負ってしまう。
 「く、くそ」
 『返せぇ~、ビーナスのぉ~』
 振りかぶられた右腕を見て、思わず目をつむるククール。
 しかし、恐怖の衝撃はくることなく、代わりに金属音の音がした。恐る恐るまぶたをあけると、エイトがはがねの剣をもちながらベホイミをとなえていた。
 敵ははじき返されたのだろうか、少し後方に距離をあけている。
 「今のうちだ。早く」
 「バ、バカ言え。お前を置いて」
 「王と一緒にゲルダさんの元に。姫をお助けしたら宝石を持ってここへ来てくれ。それまで持ち堪える」
 「そんな体で無理に決まってるだろっ」
 「いいから早く。こんな化け物を連れて行くわけにいかないんだっ」
 胸ぐらをつかまれたククールの体が宙にうかぶ。そして、彼は見た。エイトの瞳が夕日の光のせいか違って見えるのを。
 「姫を、頼んだよ」
 そういうと、エイトはククールを仲間たちのところに投げつける。
 そして、男同士がぶつかったのを確認してから呪文をとなえた。
 洞窟周辺に炎の壁が形成され、エイトとトラップボックスの姿が見えなくなる。炎は、仲間ですら、その先の侵入を拒んだ。
 「あっちっち、何だこりゃ」
 「ま、まさかベギラマッ。いえ、それ以上だわ」
 「あ、兄貴ーっ」
 「ちくしょう、あの野郎。何カッコつけてやがる。ゼシカ、ヒャダルコだ。オレはバギマで吹き飛ばすっ」
 「ええ」
 ふたりが協力して放った呪文は、炎の前でむなしくかき消される。何度やっても同じ結末に、こちらのほうが息切れを起こしていた。
 「ど、どう、なってる、のよ」
 「ま、まるで、エイトの意思みたいに、消えやしねえ」
 3人はどうすることもできず、炎がまき起こる音だけがこだましていた。

 

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