ドラゴンクエスト8 竜の軌跡 第15話

 チーズの原料を手にいれたエイトたちは、アスカンタ王の真相を探るべく、夜になるのを宿で待つ。そして、アスカンタが更なる闇に包まれると、気のせいか誰かのすすり泣く声が聞こえてくる。
 幻聴だと思いたいリーダーだが、城に近づくにつれて徐々にはっきりしてくるところから、悲しみは海よりも深いのかもしれない、とエイトは感じた。
 謁見の間に足を運んだ一行は、王座を枕にしながらうつぶせになっている、高貴な服を身にまとう男性を発見。王冠をつけている辺り、アスカンタ王だろう。
 ようやく姿を拝見したエイトは、うずくまってしまっている一国の主に声をかける。
 「何故だ。シセル、君はどうして僕を置いて天国へ行ってしまったんだ」
 もう少し大きな声で話しかけようと、そばに歩いていくと、生気のない顔が王の座にあった。
 「あれから2年。僕の時計は止まったままだ。何ひとつ、心が動かない」
 先頭にいる元兵士は、腕に力がはいらなくなる。
 「せめてもう一度だけ。夢でもいいんだ。もう一度、君に会いたい」
 なるほど、キラのいっていたことがようやくわかった。確かにこれでは政治どころではないだろう、とエイトは思う。
 きびすを返すと、不思議がるパーティーに事情を説明する。
 「キラって結構かわいい子だろ。あれも目に入らない上玉、2年も忘れられない美しいお后様、か」
 幽霊でもいいからぜひお目にかかりたいね、とククール。あのね、とゼシカが怒り顔になるが、今は夜のため表情だけでおさまった。
 下の階にむかうと、見張りの兵からは、毎晩王の泣く声が、喪に服している間絶えないという。
 だが、心から愛する人を失えばああなってしまうのかもしれない、とエイトは想った。もし、あの方が、亡くなってしまったのなら。
 恐ろしい考えを振りはらうべく、頭をふると、
 「兄貴、どうされたんでがすか」
 「いや、何でもないよ。それにしても困ったな」
 「そうね、ドルマゲスどころじゃあないわね」
 「ま、あのふたりは大恋愛の末に結婚したんだろうな。情熱的って言うか女々しいって言うか」
 「人の気持ちだからしょうがないよ。ヤンガス、この大陸にはもうひとつ街があったんだよね」
 「へえ。パルミドってえ小汚え街ですが、実は」
 「あっ」
 外にむかっていると、正面から少女の声がした。見てみると、キラと目があう。
 駆けよってきた少女は、
 「もしや王の間で、王様とお会いになられたのですかっ」
 「うん。でも話しかけても全然反応なかったよ」
 やはり、という表情をしたキラは、王の代わりに頭をさげる。
 「旅の方。我がアスカンタ王は今は誰の言葉も耳に入らぬのです。ご無礼はお許しを」
 「気にしないで。事前に聞いてたし。それより、シセルという名前を知らないかな」
 「そのお名前は、2年前に亡くなられた王妃様のです」
 やはり、と納得する質問者。口に手を当てながら、キラは、死んだ人に会えるなら、と口にする。
 「シセル王妃が再び目の前に現れたのなら、王様も元気になってくださるのに」
 さすが奉仕者、主君の性格をよく読みとり、本人がおっしゃっていた望みを理解している、とエイトは感じた。
 「そうだわ、わたくしの祖母が昔、不思議な話をたくさん、たくさん話してくれました」
 その中には、どんな願いもかなえる方法があると聞いたような気がする、とキラ。しかし、内容が思いだせないらしい。
 ひらめいたように、
 「旅の方お願いがあります。この城より西、橋のそばの家に住むわたくしの祖母に、願いをかなえる昔話を詳しく聞いてきていただきたいのです」
 「橋、って言うと、川沿いにあったあの橋のことかな」
 「そうです。ただのおとぎ話かもしれませんが、もしそれが本当なら、わたくしは王様の願いをかなえて差し上げたい」
 祈るように目を閉じ、純粋な心で胸に両手を置くキラ。本人は自分で行きたいそうだが、仕事もあるため、勝手に抜けだすわけにもいかないと話す。
 エイト自身も今が緊急の旅でなければ、すぐに引き受けていたところだ。しかし、姫と王にかけられた呪いのほうが、彼にとっては重要でもある。
 とはいえ、あの場所で一度宿をとった。ルーラならすぐに行けるだろう。
 「わかった。今から行ってくるよ」
 「ありがとうございます。わたくしは王様がお元気になられるよう、教会で祈ってております。どうか、お願い致します」
 と、一礼した後、ゆっくりと来た道を戻っていった。
 「さすがは兄貴でげす。頼まれた事はきちんと果たす。それがカタギの道ってもんでがす」
 「そんなことないよ。あんなに一生懸命だからさ。ただ問題はどうやって王を説得するかだけど」
 「にしても、そのおとぎ話って本当なのかな。試したいって言ってるけど」
 「行けばわかるよ、きっと」
 「そんなツゴウのいい話があるわけないだろ」
 と、ククール。だが、ヤンガスもゼシカもキラの力になりたいと考えているようで、結局はキラの実家に行くことになる。ある人物に関しては、かわいい女の子だから、というのもあるかもしれないが。
 アスカンタ城をでて、教会を横目で見ながら、エイトはトロデ王に報告する。
 「ふむふむ、そういう事情があったとはな」
 「はい。小間使いのキラはミーティア姫と同じ年頃なのにも関わらず、2年間もろくに休まず奉仕してお」
 「え、偉いっ」
 急にそっぽをむいたトロデ王は、家臣にむかって満面の笑みで叫ぶ。
 「何と主君思いのメイドじゃ。わしは感激したぞ」
 一国を治める者は、良い家臣は国の宝だ、と口にする。
 「しかもそのメイド、ミーティアと同じ年頃の娘と言うではないか。よし、これは命令じゃっ。そのメイドさんのチカラになってやれ」
 「かしこまりました。しかし、寄り道になってしまいますが」
 「そんなもんお前が急いでパパッと片付ければ問題ないわい」
 「承知致しました。では、キラの実家に向かいます」
 うむっ、と、大きく首を縦に振るトロデ王。家臣はルーラをとなえ一瞬で川沿いの教会まで移動すると、目的の家へとお邪魔する。
 夜分にも関わらず笑顔で出迎えてくれたおじいさんは、部屋へと案内し、コーヒーをだそうとする。
 「あ、お構いなく。実は願いがかなう昔話しをキラから聞いてきて欲しいと頼まれまして」
 「おやおや、そうじゃったか。それならうちのばあさんと話すがええ」
 部屋の角で糸車をまわしているおばあさんは、顔をあげ、キラの祖母であると名乗る。
 「まあ年寄りですからねえ。アスカンタの古い昔話なら何でも知っておりますよ」
 同じリズムを刻む糸車に乗って流れてきた音には、不思議な丘の話だという。
 「家の前に流れる川の上流にありましてねえ、満月の夜に一晩、丘の上でじーっと待ってると、不思議な世界への扉が開くと言いますがねえ」
 「丘の頂上で、ですか」
 「ええ。でもまあ、ただのおとぎ話ですし、本当だかどうだかわかりませんよ」
 第一、山の夜は冷えますし、あんな高い丘の上で夜更かしする者は誰もいやしませんよ、と笑うおばあちゃん。お礼を言ってでようとすると、たまたま訪れていた旅の剣士に声をかけられる。
 彼も不思議な丘の話を聞いて上ってみたものの、とくにめぼしいものはなかったらしい。
 「行かないほうがいいだろう。魔物も強いからな」
 「ご忠告、ありがとうございます」
 同様の立場であるエイトは、親切心だけもらうことにした。
 一度外にでて橋の近くに移動すると、一連の報告をすませる。
 「ほほう、アスカンタの南にそのような不思議な場所があるとは」
 「月夜の晩、高い丘の上で一晩祈りを捧げればどんな願いも叶う、か。オレも行くだけムダだとは思うけどね」
 「でも私、その話、気になる。本当のことだよ、きっと」
 何となくだけど、と続けるゼシカ。彼女は魔法使い、旧修道院でもそうだったが、何か魔法がはたらくものに敏感なのだろう。
 「それにしても。あのばあさんがキラの50年後か。人生は非情なもんだね」
 「ククール、茶化してる場合じゃないだろって、あれ。トロデ王は」
 「これ、何をしているんじゃお前たち。さっさと願いの丘に行くぞい」
 最愛の者を失うは半身を失うのも同じなんじゃぞ、とトロデ王。そういえば、エイトが城にくる前に王妃は亡くなったと、彼は城の人たちから聞いている。聡明で美しかった妻を失った王が、どれほど嘆いたかも。
 「は。しかし、このことをキラに伝えなくても」
 後ろでため息がもれる。
 「頼まれた事をただやってるだけじゃあ、ガキの使いと一緒だろ」
 キラの願いは何か、と聞かれたエイトは、はた、と動きが止まる。そう、彼女の真の願いは、アスカンタ王が元気になること。そしてわずかな望みをおとぎ話に託したのだ、と。
 「そういうこった。真相がどうあれ彼女の願いをかなえてやる。それがモテの秘訣ってもんさ」
 「も、もて?」
 大きい目をさらに大きくさせる元兵士。ぱちくりしている彼に対し、色気がねえな、と、真っ赤な聖堂騎士団は呆れてしまった。
 「兄貴~、早く行きやしょうぜ」
 いつの間にか合流していたククールに続き、リーダーは願いの丘へと出発する。
 ヤンガスを先頭に歩いていく一行は、一度キラの実家から北上し、それから上流へとむかうことになった。彼がいうに、願いの丘付近には入り口らしきものはないそうなのだ。
 つまり、可能性があるとしたら死角だろうと判断したパーティーは、丘の下側を調べてみることにしたのである。
 考えが当たり、洞窟らしきものを発見。エイトは先程の旅人に道を聞けばよかったことに気づいたが、知らないフリでやりすごす。
 時間の神が味方してくれたのか、今宵は月光が強く降り注いでいる。明かりがなければ闇の空洞になっていたが、運よくたいまつをともさなくても問題なかった。
 「もし強そうな魔物が出たときは、アッシの後ろに隠れるでがす。そうすりゃケガしねえで済みやす」
 「そうさせてもらうぜ」
 「あんたには言ってねえっ。オレはエイトの兄貴に言ったんだ」
 「ケチケチすんなって。それにぺらぺらしゃべると消耗するし、魔物も呼び寄せちまう」
 「ったく。とにかく、足元にも十分気をつけるでがすよ。月を見る前にケガしちゃいけねえ」
 「あ、ありがとう。みんなで気をつけていこう」
 丘といっても、やはり高さはある。かまいたちを放つサイコロンや弓を使うアローインプなどとの戦いもあり、足場を気にしながらの探索は神経を削っていく。
 崖には近寄らないようにしながら迫りくるタイムリミットにも気にかけなければならない。
 小休止をはさみながら、一行はなるべく早く頂上へとたどり着こうとする。しかし、思った以上にややこしい構造に、目が回りそうになっていく。
 上り初めてから周囲の景色を数回ほど見た後だろうか。エイトたちはようやく頂上らしき場所に足をつけることができた。
 だが、そこには崩れた建物があるだけで、とくに何もない。
 「あれ、座らねえんですかい」
 どっこいしょ、とその辺に腰を落とすヤンガス。不思議とここには魔物の気配がしないため安心しているのだろう、とエイトは思った。
 「あ、しまった。今日は弁当がねえでげす。これじゃあひと休みできねえ」
 「遠足に来たんじゃねえだろ。ほら言わんこっちゃない、結局おとぎ話だったワケだ」
 「確かに、何もないね」
 月が大きく見えるような気がするけど、とエイト。地上よりは高い位置にいるため、そう見えるだけなのかもしれない、とも考えた。
 そんな中、紅一点は、
 「この気配、魔法だわ」
 「魔法?」
 「ええ。この丘と満月、何か強い魔法のチカラを感じる」
 それにあの壁を見て、と指をさすゼシカ。示した場所には、ボロボロの支柱と壁がある。
 「あそこに何かあるはずよ。わかるの。今、丘を降りてはいけない」
 エイトは壁を触ってみるが、何も感じないし、古びた建物の一部にしか見えない。とはいえ、他にできることもない。
 一行は結局、丘の上で夜を明かすことに。念のため持ってきていた羽織りもので、体温を温存する。
 それぞれ独自の暇つぶしをしていると、月が真上にやってくる。その瞬間、エイトにもわかるぐらいの、不思議な力を感じた。
 彼は思わず立ちあがり、近くでうたた寝をしていたヤンガスが彼を見上げる。
 「どうしたんでがすが、兄貴」
 「敵、じゃないけど、何かを感じる」
 「これがゼシカの言ってた魔法のチカラってヤツか」
 「み、見てっ」
 全員が立ち上がった瞬間、月の光で伸びてきた扉のような影が、古びた壁まで進行。すると、本物のドアのような絵が作りだされ、ホタルが舞っているようにキラキラと光りだした。
 ふと、空をうかがうと、窓の骨組みらしきものと月とが、地上から直線上に並んでいた。
 顔を見合わせた一行は、うなずきあい、まずはリーダーが確認することに。
 エイトはゆっくりと謎の影に近づき、同じように指先で触れる。
 すると青緑の光があふれだし、その場にいる全員が、優しく包まれていった。

 

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