ドラゴンクエスト8 竜の軌跡 第13話

 マルチェロの命令で事実上追放を命じられたククールは、怒りや他の感情がまざったような表情をしながら部屋を退出。その後を、トロデ王は、わざとらしいほどに、
 「姫と一緒に、馬車で待っとるからな~」
 と、手を振りながら追った。
 ふたりを見送った一行は、反対方向からした引きだしの音につられ、振りむく。
 発生主の左手には、丸められた大きな紙が握られていた。
 「これはこの世界の地図。ドルマゲスを追う旅に、きっと役立つ事でしょう」
 エイトたちに疑いをかけたお詫びの印、ということらしい。リーダーはお礼をいって丁重に受けとった。
 旅人に必需品が渡ると、騎士団長は立ちあがり、一拍する。
 「それでは、皆さん。ククールをどうぞよろしく。旅の無事をお祈りしております」
 騎士の敬礼をすると、彼は静かに座り、こちらの返事を耳にする。その後、書類を視界にいれ、せっせと新院長として仕事し始めた。
 新たな道具をつかんだエイトたちは、マルチェロの邪魔をしないよう、扉を静かに閉め、ゆっくりと歩きだす。
 早く去りたい気持ちもあったが、状況が変わったことで得られる情報もあるかもしれないと思い、彼らは気持ちを抑えながら、院内を歩きまわる。
 だが、得られたのは、騎士たちの命に別状はないこと、ククールの身を心配している者、疑ってしまったことへの謝罪、オディロ院長への悲しみなど、現状に関するものだけだった。
 「ごちゃごちゃした話は苦手なもんでさっぱりなんでがすが、あの若造も旅に加わるって事でがすかい」
 「うん。これからは4人になるね。助かるよ」
 「そうでがす、3人じゃあ無理でも4人なら、野郎にも勝てるかも知れねえっ」
 「そうね。どんな人格でも戦力は戦力よ。今は猫の手だって借りたい」
 「その前に、ククールがどの程度腕が立つのか見極めねえといけません」
 ドルマゲスに逃げれられたうさ晴らしもしてえし、魔物でもやっつけに行きやしょう、とヤンガス。八つ当たりはともかく、同行してもらう以上、どういう戦いかたをするのかを知っておかなくてはならないのは確かだと、エイトは思う。
 ここで得られるものはないと判断した彼は、ククールたちが待つ入り口へとむかうことに。
 「そうだ兄貴、マイエラを出たらアッシを殴ってくだせえっ」
 「え、何で」
 「ドルマゲスの野郎が目の前にいたのに、アッシはビビッて手も足も出なかったでげすから」
 「それは僕も同じだよ。体が動かなかった」
 「エイトもそうだったの。実は、私も」
 「だって、ヤンガス。君が責任を感じることはないよ」
 「ううっ、兄貴は本当に懐が広いでがす」
 泣くことないじゃない、とゼシカのツッコミがはいるも、涙もろい元山賊には染み渡っていたようだ。
 そうこうしているうちに、入り口まできていた一行は、扉の前にいたククールと鉢合わせる。
 「よう。まあ、そういう訳だから、オレも旅に加えてもらうぜ」
 「よろしく頼むよ」
 「まあ適当にな。それに、院長はオレの親代わりだったんだ、絶対に許さない。必ずカタキは討つさ。それに」
 エイトの横をすり抜け、ゼシカの前へ。
 「約束してたよな。色々世話になった礼は、必ずするって」
 ククールは目線を彼女にをあわせ、右手を胸にしながら、
 「ゼシカ。これからオレは片時も離れず君を守るよ。君だけを守る騎士になる」
 と、キザなセリフを言ってのけた。
 受けた本人は腕を組みながら反対方向にむき、
 「はいはい。どうもありがとうございますー」
 と、迷惑そうにしていたが。
 苦笑いしながらも、何となく強制的に歩きだすエイト。ヤンガスに続き、ゼシカ、ククールとついてくる。
 そして、マイエラをドニ方面へ抜けた一行は、マルチェロからもらった地図をさっそく見ることに。
 「2階からイヤミ、じゃない、マルチェロからもらったこれで、先回りできそうね」
 「そ、そうだね。ええっと」
 「この大陸にゃあ、修道院のほか、でかい街と小さいお城がひとつずつありまさぁ」
 「これとこれ、かな。結構距離がありそうだね」
 「そうでげす。どっちもちょいと長旅になるでがすから、いっぺん準備してったほうがいいでげす」
 念には念を入れるべく、エイトたちはドニにむかうためトロデ王の待つ馬車と合流。御者台に座る王は、ククールの姿を見るなりうなずき、
 「あのククールがわしの新しい家臣になったか」
 「オレはしばらくの間、旅に同行するだけで、化け物ジジイの家臣になった覚えはないぜ」
 「うむうむ。むさいヤンガスより見栄えが良い。わしの威厳も増すというものじゃ」
 「聞けよ、おっさんっ」
 先頭を歩く元兵士の背中に冷や汗が流れていることなど、誰も知る由もなかった。
 トロデーン国王いわく、古来より王が忍びで旅をするときは、左右に男ふたりと若い娘を連れているものらしい。また、娘は宿に泊まるたびに風呂にはいるしきたりなのだとか。
 人数が違うと思ったエイトだが、あえて聞き流し、通過点へとやってくる一行。
 とくにドルマゲスの情報は得られず、次の目的地に足を動かすことに。
 「何だよ。オレの顔に何かついてる」
 「あ、ごめん。何でもない」
 男に見つめられても嬉しくないんだが、とククール。ごめんごめん、と口にしながら、ミーティア姫の隣にならぶ。
 「ああ見えてククールの奴も苦労してきたようでがす」
 「うん、そうみたいだね」
 「ゼシカの姉ちゃんといいククールといい、家族に縁がねえ奴ばっかりでがすなあ」
 少ししょぼくれたヤンンガスだが、ぱしっと拳と手のひらをあわせ、こういうときはひと暴れするのが一番でがすっ、と張りきって石のオノを振りまわす。
 人数が増えたことによってにぎやかになったパーティーは、より会話も増し、修道院で起きた出来事をいくらか緩和されてきている雰囲気になる。
 しかし、地元の人間がいっていたように、南に移動するにつれ魔物も強くなってきており、体力やMPなどが消耗しているのも事実だった。
 「もうちょいで橋が見えるでげす。そこに教会があるでげすよ」
 「そうなんだ。休ませてもらえるかどうか聞いてみよう」
 「それが良かろう。未知なる地へ進む時は、どこがゴールかわからんからな」
 満場一致で、宿をとることになったエイトたち。女性もいることだし、無理は禁物だからだ。
 ヤンガスのいっていた教会は、こじんまりとしており、護衛の4人で中へとはいる。本人は訪れたことがないため、詳しいことは知らないようだ。
 シスターに声をかけ、休ませてもらえるかを聞くと、泊めてもらえることが可能だという。さらに、今日は祝祭日らしく、無料でよいというのだ。
 「こいつぁラッキーでがす。兄貴、お言葉に甘えやしょう」
 「そうだね。僕は王をお連れするから、みんなは部屋で休んで」
 「エイトはどうするのよ」
 「外で寝るよ。姫をひとりにしておくわけにもいかないし」
 「おい、エイト」
 「何」
 「姫様って美人なのか」
 「えっ。そ、そりゃあ、まあ」
 トロデーンの宝だし、とだしかけたが、あらぬ誤解を受けそうなので、とても有名だよ、とだけ伝える。ミーティア姫には失礼だが、このときばかりは馬の姿でよかったと、エイトは感じてしまった。
 「ふうん、へえ~」
 「な、何でニヤニヤしてるの」
 「べっつに~」
 ガシッと首に腕をまわしながら、恋のイロハならオレが教えてやるよ、というククール。
 「な、ちょ、何言ってんだよっ」
 「照れんなって。ホントのことを言ってごらん」
 「いい加減にしろってば、もうっ」
 腕を引きはがし、顔を真っ赤にしながら外にでる彼。ヤンガスとゼシカは、部屋から顔をだし何かあったのかと聞くが、赤い服の男はニヤけるばかり。
 何が起こったのかと、顔を見合わせるふたりであった。
 その夜、エイトの計らいで久々にベッドで眠ることのできたトロデ王は、ある物音で目を覚ます。
 ふと見ると、新しく加わった家臣の姿がなく、たまたま見た窓の外にその姿が映った。
 修道院での出来事から、何らかの事情を察していたトロデ王は、目をこすりながら、大きな木の下で夜空をあおぐククールに話しかける。
 「ククールよ。お前、何やら事情がありそうじゃな」
 彼は相手を一瞬見るも、再び夜空に目を預ける。もうひとりは、近くにあった切り株に腰をかけながら、
 「話せば気が楽になることもあるやも知れんぞ?」
 無理にとは言わんが、と続けるトロデ王。だが、ちらちらと見上げつつ、ワザとらしく頭を動かす。年配の意図をくみとったのか、月の光に映える銀の青年は、微笑しながら右手を肩の高さにかざす。
 「何だろうね。こう、うまくいかねぇんだよな。あいつ、マルチェロとは」
 いっそホントに血が繋がってなきゃあ、お互い幸福だったのかもな、と続ける。
 ククールは遠い景色を、心理的にも同じ距離を感じながら見つめ、ゆっくりと口を動かし始めた。
 「オディロ院長はこの辺じゃ名の知れた慈善家でさ。身寄りのないガキを引き取って育ててた」
 実は、彼もそのひとりであり、その地を治めていた領主夫婦が一度に亡くなってしまった後、マイエラ修道院に流れ着いたという。
 「金もない、親戚もいないそういうガキは、他に行く場所がなかったんだ」
 幼く心細い想いをした子供には、神聖な建物も恐怖の対象物にしか見えず、高い厳かな建造物は、先の見えない闇の中にたたずんでいるにすぎなかった。
 力一杯に押した扉は、幼子を出迎えたものの、出て行かないようにするためにすぐ閉じられる。音に驚いた少年はゆっくりと進み、彼を見下ろす像や写真に、自らの体を守るような動作をさせる。
 少年は温もりを求めてその場から走りだすと、光が差しこむ中庭へと足を運ぶ。通りすぎる大人たちは、彼のことなど眼中にない。
 「君、初めて見る顔だね」
 そんな中、優しい目をした青年が、瞳と同様の口調でククールに話しかける。
 「新しい修道士見習いかい? ひとりでここまで来たの?」
 少年は、こくり、と、うなずく。
 「そうか、大変だったね。荷物は? それだけ?」
 「あの、父さんと母さん、死んじゃったんだ。だから荷物なくて、他に、行く所もなくて」
 修道士とは異なる格好をした青年は、しゃがみこみ、か弱い少年の肩に手を置く。
 「僕も似たようなものさ。でも、ここならオディロ院長やみんなが家族になってくれる。大丈夫だよ」
 「うん、でも、でも」
 家族という、望んだ言葉。だが、また失ってしまう恐怖とがいりまじる。
 「院長の所に案内する。ごめん。ほら、泣かないで。君、名前は」
 ようやく安心できた少年は、涙をふいて、
 「ククール」
 と名乗り、差し伸べられた青年の手をとろうとする。しかし、先程の態度とは打って変わった彼は、今まで感じたこともない冷たさで立ち上がり、少年をにらむ。
 「そうか、君、お前がククールなのか」
 「え」
 「出ていけ」
 「あ、あの」
 「出ていけよ。お前は、お前なんか、今すぐここから出ていけっ」
 かみ締めた青年は、お前はこの場所まで僕から奪う気なのか、と少年に問いただす。もちろん、少年には、何のことだかかわからない。
 青年はそのまま、少年を捨て置き、奥へと姿を消した。
 「すまぬな、幼子よ。今の話、全て聞いてしもうたよ」
 青年よりも立派な服を着た老人が、落ちこんだ少年に声をかける。
 「まさかマルチェロがあの様な態度を取るとは。いったい」
 当時から院長だったオディロ修道院長は、そうかお前が、と口にする。
 「マルチェロには腹違いの弟がいると聞いていたが。お前がククールなのか」
 頭をなでられながら、本当の優しさに包まれる少年。
 「全ては時間が、ここでの暮らしが解決するだろう。さあおいで、ククールよ」
 肩を抱き、孤児を受けいれたオディロ院長に、少年は奥へと招かれる。
 「その後しばらくして、初めて知ったんだ。死んだ親父にはメイドに生ませた腹違いの兄がいたってな」
 それがマルチェロであり、自分さえ生まれなければ跡継ぎは奴だったということも。
 しかも、マルチェロと母親は、ククールが生まれた後、無一文で屋敷を追い出だされてしまい、すぐに母親が亡くなったらしい。
 「身寄りのなくなったあいつは、あの修道院でオレと親父を恨みながら育ってきたんだ。ずっと」
 修道院での生活の中、勉強熱心で、将来有能な騎士見習いのマルチェロは、彼にだけ態度が違ったのは、そういう理由だった。
 そして、それは現在進行形でもあるのは一目瞭然。
 「ホント、寝耳に水の話でさ? 幼く純粋なククール少年の心は、こっぴどく傷ついたね」
 遠くを見つめながら、ククールは切なく微笑し、
 「まあ、ね。クソ親父はしたい放題やってさっさと死んじまった。奴には憎める相手はオレしか残ってないんだ」
 間をおき、
 「わからないでもないんだ。だからいい機会だったと思うよ。近くにいるから、余計いらだたせる」
 ちょうどマイエラ修道院の窮屈な暮らしにも飽き飽きしてた頃だったし、と続ける。
 「ククール、お前」
 周囲には、いつの間にか、小鳥の声が鳴りひびいていた。
 「ずいぶん、長話になっちまった。ほら、そろそろ夜明けだぜ」
 何事もなかったかのように立ち去る赤い青年。
 トロデ王は呼びとめたが、今まで歩いてきた方角を見ると、何も言わず、教会へと戻る。
 入り口から見て左側に人影があったことなど、ふたりはすっかり忘れていたのだった。

 

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