スノーマン 青春の大陸 前編

 うららかな陽気に、思わず昼寝をしたくなりそうになる。服も厚着をしなくてすむし、動きやすい気温だ。
 一部、のぞかれるが。
 「やっぱりちょっと肌寒いっちねぇ」
 だから、お前だけだっつーの。
 雪の精霊だから仕方がない。まだ慣れないが、聞き流したほうがいいこともあるしね。それに、住んでいる大陸にいるときよりも動きがゆっくりしているし。
 俺たちが大陸の気候に慣れるまで歩くと、渡された地図をとりだす。
 「何でハートマークがついてるんだ」
 「目印っちよ。ケイシャらしいっち」
 女の子なのかな。そういやあ性別聞いてなかったけど。
 とりあえず、目的地にむかうことにした。
 今までと同じように土地勘があるピクルを先頭に移動していく。最初の大陸でそうしてもらったように、彼のペースに合わせることにした。
 土の香りが強いこの場所、季節の名前を借りて春の大陸、とでも呼んでおく。春の大陸は、現実世界と同じように青々とした知らない草木がなり、花が咲いている。
 少しだけ踏みならされた土の道を歩いていくと、やがて地平線に出迎えられた。晴れ渡ったすがすがしい空に、横一直線にのびる白い線に目が離せない。
 さあっ、と汗を軽く拭い去ってくれるような優しい風が心地よく、同時に自然の香り、といえばいいのかな。都会では決して味わえない空気の香りがし、肺が酸素を欲しがった。
 「サクヤ~、早くっち~っ」
 あれ、いつの間にかピクルと距離があいてるし。
 地平線を見た場所は少しだけ小高いくなっており、先をいくスノーマンがかぶっているサンタみたいな帽子が上からわかるほど。急な坂道でもないので、雪が降ったあとのソリすべりが面白そうだ。
 俺の身長ぐらいある草を横目にしながら相棒においつくと、
 「ピクル、あとどれぐらいでつくんだ」
 「まだ半分ぐらいだっち。疲れたっちか」
 「いや、俺は大丈夫。ピクルは平気なのか」
 「大丈夫だっちよ。ありがとうっち、サクヤ」
 ビョンンビョンと跳ねる雪ダルマ。顔から雪が落ちてるっちゅーの。
 だが、前の大陸より高く弾んでいない。体力を温存しているのだろうか。
 動き始めようとしたとき、白い何かが周囲を支配した。正確には、それが地面から風で飛ばされ、舞っているようだ。
 「うわーっ、キレイっちね。ワタゲだっちっ」
 すごいっちーっ、と口にしながら猛スピードで走っていくピクル。完全に子供の反応だった。
 このワタゲがどこから来たのなんてお構いなしかよ、とツッコくまもなくいなくなった彼。ポツン、と取り残されていることに、ようやく気づく。
 やっべ、早く追いかけなきゃ迷子になるじゃないか。
 警察なんぞいないこの世界だ、マジで死活問題である。だが、走れど走れど、雪ダルマの姿は見られなかった。
 「ピクルの奴、いったいどこまでいったんだよ」
 ひざに手をつきながら、呼吸を整える。本来なら運動は気持ちがよいな、なんて話になりそうだが、それはない。理由は察してもらえるだろう。
 ゆっくりペースで歩いていると、巨大な影が地面を覆った。まるで音のない飛行機が低空飛行したような感じだ。
 もちろん、んな高度な文明がこの世界にあるとは思えない。しかも、形がおかしいし。
 周囲を見渡したが、背丈の高い草があるだけ。とりあえず、道を見失わない程度にはいり、ゆっくりと進む。
 またも、なぞの巨大影。四枚の羽根をした飛行物体だが、見上げる勇気がないのは、しょうがないと思うよ、俺は。
 しかも草むらをが終わってしまい、目の前には見晴らしのよい草原が広がっていた。
 すぐさま戻ればよかったのだが、ピクルが走っていった方角はこの先である。追いかけるしかないが、どうしても足が動かない。
 止まっているうちに、台風並みの風が俺を襲う。謎の影の持ち主が地響きとともに近くに着地したのだ。
 身体が浮くほどの揺れは、ビビるのに十分すぎて身動きをとらせない。見上げれば、人間なんて簡単に踏み殺せる体格で、目の前に筋肉と翼がついた電波塔が現れた感じだ。ついでにトラックを楽になぎ倒せそうな尻尾つき。図鑑に載っているような恐竜を間近で見るなんて、思わなかったよ。
 恐竜の頭が動き、見下ろす。おそらく数秒後、みるみるうちに肉食獣の口が、ゆっくりとせまってくる。
 思い切り鼻息を吹きかけられたら飛ばされそうな距離になった。相手は動かないでいたが、しばらくすると右側に頭を動かし、俺を見る。そして、しばらく時間を置き、左側から視線を注いでいた。
 同じ動きが何回か続き背筋を伸ばした恐竜は、また同じ動作をする。なな、何してんだよ。
 「食ってもうまくねぇぞ、腹壊すぞ胃が腸炎になるぞ下痢がとまんねーぞっ」
 近づいてくる頭部。ああ、もうだめだ。こんなところで死ぬなんて。しかも食われるなんてて。
 巨木が倒れるような地響きと音。俺の身体も若干、無重力を経験したような気がした。
 目の前の恐竜が座りこんだため、できた現象のようだった。尻尾をゆっくり振りながら、再び俺を凝視する。
 い、意外に目がつぶらじゃないか。
 チビりそうになりながらも、足に渇をいれ、距離をとろうとする。恐竜は目で追ってくるが、ほかの場所は動かなかった。
 一大決心をし、草原の草の中に身を隠そうと猛ダッシュする。しかし、ぶっとい丸太が行く手をさえぎり、再びしりもちをついた。先ほどはかわいらしく動いていた、あの尻尾だ。
 ああ、もう。
 もはや何も考えることができなかった。それこそ化学兵器や戦車などの武器がないと駄目だろう。
 頭の中にに過去が一気に流れてきた。
 親の顔、友達、初恋の人、バイト先の先輩後輩、おぼれかけた海でのこと、山に登ったこと、テストの赤点補習は実は巨乳の新米教師さん目当てだったこと、運動会、学芸会、文化祭。デートで恥ずかしい想いをしたこと。
 俺の人生、いったい何だったんだろう。
 ああ、遠くから声が聞こえる。お迎えが来たのか。それにしてもずいぶんしゃがれ声だな。
 「おいお前、何してるんだ」
 鳥が話しかけてくる。変な世界だな、ここが天国なのか。
 「おいこら。サルちゃんよ、しっかりしろってば」
 誰がサルだっ、と叫びたいところだが、体が動くのを拒否する。
 「しょうがねぇなぁ」
 座りこむような動きをした何か。目の前には、鳥の顔のドアップが映しだされる。
 「のわあっ、ととと、トリトリトリ」
 「ああ? 当たり前だろうが、オレはバードマンだぞ」
 バ、バードマン、だって。あの真っ黒な某ヒーローのパクリか親戚ですか。その割にはゲームに出てくるような見かけですけど。
 「こら、テナガザル。大丈夫なのか」
 頭にオプションがついた気がするが、そんなことはどうでもよい。バードマンとかいう顔が鳥で足は人間のように長い不思議な生物は、俺の思考を、徐々にクリアにさせていく。
 そして、恐怖のどん底に陥れた恐竜は、頭を動かしながら、こちらを伺っていた。
 「心配しなくても食いはしないよ。お前を珍しく思ってるだけだ」
 「ほ、本当に食わないんだな」
 「ああ。それにお前を食ったところで足らないしな」
 心配がブーメランみたく戻ってきたんですけど。
 立てるか、と聞かれ、ゆっくりと動作で答える俺。完全に現実味帯びた瞳には、人間でいう腕の部分が羽になっている生命体と向きあっていた。そして、不思議な表情をし、
 「うーん、サルにしては随分背があるな」
 「サルじゃなくって人間だよ」
 「はあ。冗談いえるぐらいに回復したのか」
 「冗談じゃなくって、本当に人間なんだってば」
 「そうかいそうかい。で、ニンゲンがここで何をしてるんだ」
 信じてないな、こいつ。まあ、この世界に人間はいないから仕方がないか。
 正体についてはさておき、俺は雪ダルマのピクルと一緒に季節がとまってしまった原因を突きとめにきたことを説明する。その相方のスノーマンとはぐれてしまい、今に至ることも。
 「この大問題を解決しにきただって。お前、本当にニンゲンなんだなっ」
 どんよりとにらんだ目はどこへやら、まるで子供みたく輝きだしたバードマン。黄土色の肌は硬そうだが、中身はその硬質化した皮膚すらとかしそうな勢いである。
 「そうかそうか。これで皆、元通りになるな」
 「やっぱり何か異変が起きてるんだな」
 「ああ。でも、ここだと落ち着かない。オレの家に招待しよう」
 「そりゃどうも。で」
 俺はゆっくりと巨大恐竜を見上げる。相手は、何か、とでもいいたそうに、クアァッ、と鳴いた。
 「安心しな。さっきも言ったが食わないよ。図体はでかいが大人しくて好奇心が旺盛なんだ」
 お前のことが気になってるんだよ、とバードマン。あんまりよい気持ちじゃないが、命の保障はあるらしい。ふう。
 「さあ、背中に乗りな。ひとっ飛びするから、しっかり捕まるんだぞ」
 「ああ」
 そう話すと、バードマンは背中をむけ、地面と水平の体制でしゃがみこむ。首に手を回し寄りかかると、椅子みたいに座ってよいといわれたので、靴を脱いであぐらをかいた。
 すると、腕の羽根が空に向かって投げだされ数回羽ばたくと、体がふわりと風に抱かれた。
 遊園地の乗り物がゆっくり動きだしたのと同じ感覚になると、次は徐々に天へと近づいていく。
 地平線が見える高さまでやってくると、バードマンは目的地にむかい始めた。
 春の陽気と現実では味わえない爽快感を満喫、したいところだが、今はそれどころじゃない。
 「スノーマンを探してるって言ってたな。草原で迷ってるのを見かけたから、家に連れてきたんだ」
 「そうなのか、よかった。溶けてないかと心配でさ」
 「だな。雪の精霊が今の季節に来るなんてことは、余程のことがない限りないからさ」
 雪だもんな、暑さは苦手なはず。それにもめげずこの世界を救うために行動してるんだ。ホント、大したもんだよ。
 足元一面に緑色が広がる中、遠目だが、進行方向に一部だけものすごく高くそびえる塔のような山がある。バードマンいわく、山の中心部分に彼の家があるそうだ。
 だんだん山脈の輪郭が明らかになってくると、先ほどあった巨大恐竜でも通れそうな穴とそこから数キロ離れた場所に立派な一軒家があった。
 バードマンは後者のほうに体をむけ、少しずつスピードを落としていく。飛び始めたときと同様にいったん空中でとまり、足場へとゆっくり下がっていくと、着地音がしないほどやさしく山へと降りたつ。
 俺はバードマンの背中に座り、靴を履いてから歩行器官を動かした。
 しかし、くらっ、ときてしまう。
 「おっと、早く家に入りな。ここは山に慣れてない奴はつらいらしいからな」
 酸欠かな。山に登ると起きやすいって聞いたけど。
 見た目どおりに軟弱だなあ、と笑わいながら肩を貸してくれるバードマン。うれしさとちょっとイラッとした感情が顔にでたが、口角は無理にあげた。
 家にお邪魔してゆっくりしていると、オラウータンに青色をした飲み物がだされる。見るからに飲んだ人を殺せそうなブツだが、俺のようにクラクラする人に効果テキメンなんだとか。
 ちょっと待て。ってことは動物用なんじゃないのか。味、大丈夫なのかよ。これ。
 とはいえ、体調を戻さないことには行動できないので、ビビりながらも口へと運んでいく。
 ふきだす気満々だったが、意外にほのかな甘みが広がり、温かいためか、体にしみこんでいく。
 うん、ブルーベリーっぽい味かも。何事も体験しないとわからないんだな。百聞は一見にしかず、だっけか。
 時計がないので正確にはわからないが、飲み物をもうい一杯おかわりしてから十五分ほどたっただろうか。
 「だいぶ良くなったみたいだな。少しは話せそうか」
 「うん」
 「そうそう、スノーマンのことだが」
 は、そうだ。ヘバってる場合じゃなかったんだ。
 「今どこにっ」
 「心配しなくても無事だよ。奥の氷庫にいるから、こいつ羽織って話してきな」
 ボン、と顔に厚手の布が投げられる。どうやら、マントみたいだ。おそらくバードマンが先に様子を見てきたのだろう。あちらも話せるぐらいに回復しているってことだと思うし。一部わからない言葉があったけど。
 俺は彼にお礼をいい、よいしょとは口にしないが、そういうゆったりとした動きで立ちあがる。コウコと雪ダルマをつなげると、おそらく冷凍庫だろうが。
 とりあえず、マントを身に着けて冷気を発している場所へと歩いていく。
 電気がないのにどうやって保存しているかは謎だが、中は確かに巨大な冷凍庫だった。ツララもあるし、でかい氷も置いてある。
 極寒の部屋のすみには何故か凍っていないランプがあり、近くには丸くて白い物体が。
 近づくと、確かにスノーマンだった。
 「ピクル。この野郎、よくも置いて行きやがったなっ」
 大またで近づきながら話す俺。怒鳴りたくなる気持ちも察してもらえるだろう。
 だが、相手は小さくビョンビョン跳ねるだけで、何も言ってこない。
 いや、体のむきを変えていたようだ。
 「おいピクル、聞こえてるのか」
 「あ、あのっち」
 あれ、声が違う。
 「誰だ、ピクルじゃないのか」
 「ち、違うっちよ。ボクっちはケイシャっち」
 器用に前にでてきた雪ダルマは、確かにピクルじゃなかった。前にいる雪ダルマは、姿かたちはそっくりだが、赤い目をしておらず、緑色だったのだ。
 あれ、今ボクっていったよな。もしかして男の子なのか。てっきり女の子かと思ってたんだけど。いや、顔が同じだからな、性別うんぬんじゃないか。
 それはさておき、
 「悪かったな、いきなり怒鳴って。ピクルには会ってないのか」
 「ボクっちは会ってないっちよ。原因を探してたら、バードマンが手伝ってくれて」
 それから一緒にこの家にきたっちから、とケイシャ。今の相手は何も着こんででいない状態だが、この大陸にきたということは、何かしら防寒、じゃなくって防熱対策をしてたはずだ。つまり、体力が消耗していったのだろう。
 なら、今ピクルはどうなっているかなんて、想像に難くない。
 俺は急いでコウコから飛びだし、バードマンに探していた雪ダルマじゃないことを伝えた。
 「そりゃ大変だ。オレが探して連れて来るよ。どの辺りにいるかわかるか」
 荷物から地図をひっぱりだし、はぐれただろう場所と経緯を説明。俺もついていくといったが、客人はここで待っているようにと止められてしまう。
 「本調子じゃないんだろ。いいからゆっくりしてな。仲間と一緒に探してくるから、安心しなよ」
 そういって、男前のバードマンは部屋を後にした。
 俺はというと、ケイシャのところへ戻り、今の流れを伝える。
 「バードマンたちが探してくれるなら、大丈夫っちよ。この大陸のことはすみずみまで知ってるっちから」
 「そうだな、任せよう」
 この世界にスマホがあれば、すぐに連絡がとれるのだが。まあ、ないものを考えても仕方がない。
 「そういえばさ、ケイシャ。どうしてこの世界には人間がいないんだ」
 彼は顔を横方向直角にいったん回すと元に戻し、
 「うーん、この世界で暮らすのが大変だから元の世界に戻った、といわれてるっちよ」
 仕草がかわいいような怖いような、まあその辺はスルーするとして。
 現代のような文明がないから生きづらかった、という意味なのだろうか。まあ、時間の概念がないらしいから、いつ来たかもわからないが。
 まあ、狩猟時代の生活ならキツいだろう。文明が発達して便利な生活に慣れてしまった人たちだったら、ね。
 それに、あの絵本では銃を使ってたから、それを考えると、戻っても仕方がないのかもしれない。
 真相は神のみぞ知る、ってことなのだろう。
 少し外が騒がしいような気がしたので、コウコから外にでてみると、バードマンがピクルを連れて帰ってきているところだった。彼はこの大陸にきたときよりも、三回りほど小さくなっている。
 「途中でコケて起き上がれなかったんだ。草むらの中にいたから誰も気づかなくって」

 

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