スノーマン 白秋の大陸 後編

 「少しの間でいいのっ。私がたくさんの食料を集めて巣の中に入れておくから、それまでの間だけ。ね、お願い」
 「そうは言ってもっちね~」
 小鳥と雪ダルマとの対話が続く。見た目のせいかほんわかしているが、話す内容は随分と随分とディープだ。元の世界にいたら、絶対に耳にしないだろう。
 俺は生まれたときから家があるし、食べ物にも困ったことがない。服は主にお古なのが不満だったが、この世界に来るまで、生きる、という行為に疑問を思ったことがなかった。
 当たり前のように小学校、中学校にも行った。嫌なクラスメイトもいたし、好きな子もいた。
 家に帰れば、母親が食事を作ってくれてたし、パートでいないときは外食かで前を頼んだ。小遣いもバイトをやってるから困らない。
 腹が減ったらコンビニへ行って買ってくるし、暇だと感じたらスマホでゲームやネットサーフィンをしている。
 それが、目の前の小鳥はどうだ。生きるために食料を集め、巣をつくり、子供のために必死になって説得しようとしている。ものすごく自分勝手なのはわかっているが、生きるために小さな体を使って、全身で訴えている。
 それに引き換え、俺は何なのだろう。あんなマジになって生きたことってあったかな。
 ないよな、きっと。だから、彼らの気持ちがわからないんだ。
 でもわからないからって何もしないままでいいのかな。
 俺の右手は、気づいたら握りこぶしになっていた。緊張をほどき、指を何度も開いたり閉じたりしてみる。
 そう、か。わからないなら、想像してみよう。食べ物がなかったらどう思い、どうこうどうするのか、を。
 それに、想像するのは得意分野だし。
 風邪引いたときを思い出そう。そのとき、高熱が出て食欲が全然なかったよな。その食えない状態が数ヶ月続いたとしたら。
 もうひとつは、熱がない状態で空腹のまま動けない状態が続いたとしたら、かな。うーん。
 糖分がほしくなったが、少しだけ疑似体験できた。小鳥の気持ちも、少しは体験できたと思う。
 でも、今は季節がとまり、他の大陸では食料がない状態になっているかもしれない。それを考えたら、ピクルが断るのもわかる。
 なら、俺はどういう立場で答えればいいんだろうか。
 「サクヤも何か言ってっち。このままじゃ進まないっちよ」
 「お願い、ニンゲンさん。ほんの少しだけでいいから」
 「ごめん、できないよ」
 気持ちはわかるけど、もしこのまま季節が動かなかったら、今まで会った動物たちがさらに苦しむことになりそうだから、と。
 小鳥は、間を空けると、そう、とがっかりしてしまったようで、少し高度を下げてしまう。だが、わかったわ、とだけ口にし、飛んでいってしまった。
 「ありがとうっち。やっぱり伝説のニンゲンが言ってくれると、みんな納得するっちね」
 「そ、そんなことないって」
 うまくいえないが、このままでよいとは思わない。ただ、それだけはわかっていた。
 言葉が途切れると、見計らっていたかのように探し人、ならず、探し動物が現れる。
 「やはり、動かしたほうがよいと思うか」
 「ボクはそう思うっち。ほかの大陸に実りの秋が来なくなっちゃうっちよ」
 「そなたらの大陸は今、冬であろう。快適に過ごせるではないか」
 「この世界はボクたちスノーマンだけのものじゃないっちよ。生きてるみんなのものだっち」
 跳ねながら嬉々として語るピクル。自然の流れ、ありのままが生き物にとって幸せなのだろうか。
 銀色のキツネは、座ってしっぽををふる。また立ちあがり、
 「ニンゲン、そなたはどう考える」
 「どうっていわれても。平穏が一番、かな」
 キツネの動きが一瞬とまる。あれ、伝わらなかったらしい。
 「それは、仲良く暮らす、ということか」
 「それもあるし、ほかの大陸に食い物がなくなったら大変じゃないか」
 確かにな、とキツネ。この世界で貿易をしているのかはわからないが、現代社会のような文明や技術はないだろう。それなら、ピクルのいうとおり自然のままに生きたほうがよいんじゃないか、と思ったのだ。
 ありのまま、って、ね。
 「難しい理屈なんてわからないけどさ。この世界の住人がそういってるんだから、そのほうがいいんじゃない」
 ビョンビョン、と跳ねるピクル。
 「よし、そうしよう。実は、私も迷っていてな。この大陸は食料には困らぬが、ほかの大陸のことを考えると、な」
 「季節も大事っちけど、ヨークも戻してほしいっち」
 キツネの雰囲気が変わる。神秘的で厳かな空気に、赤い色が混じった。
 「も、もしかして。何かいたずらしたっちか」
 「あのスノーマン、落とし穴を作ってこの大陸の動物たちをはめていたのだ」
 元来、そなたたちがいたずら好きなのは知っておるが度が過ぎてな、と、おかんむり。ピクルも身体がとけそうな感じになり、
 「そうだったっちか、ごめんちね」
 ボクがとっちめるっちから、元に戻してほしいっち、と怖いことをいう雪ダルマ。ま、まあ、戻らないと解決しないから、しょうがないんだけど。
 「ぜひ頼む。では、案内しよう」
 俺たちがやってきた方向へ歩きだすキツネ。後に続き、小屋へとやってくる。
 中にはいると、巨大紅葉がうねうねと身体を動かしていた。
 「ピクル、早く戻してっち」
 まったく反省してねえな、コイツ。
 話がまとまるのが早いと思ったが、何となくわかった気がした。
 キツネは棚にある液体をふりかけると元に戻る、と教えてくれたので、ビンをもってきてヨークにかける。すると、ピクルと同じ見かけで、目と羽根の色だけが違う雪ダルマの姿になった。
 「サクヤ、ありがとうっちっ。ああ、動きやすいっちよ」
 「動きやすい、じゃないっちっ。またイタズラしたっちね」
 キツネから聞いたっちからねっ、とピクル。少し引き気味になった水色の瞳と羽根を持つスノーマン。とりあえず小屋の外に出ることになったが、二体の雪ダルマがでた瞬間、どこからともなく火の玉が出現。ヨークが悲鳴を上げると、何故か後を追いかけていく火炎の玉、だが。
 「ピ、ピクル、アレは何」
 「テッツイだっち。悪いことをしたらお仕置きされるんだっちよ」
 鉄鎚って。何気に恐ろしいな。つーかどっからだしたんだ、あの火の玉。
 人の頭ほどの大きさがある火の球体は、ヨークと距離を縮めたり離れたりして一定の距離を保っている。まるで生き物のようだ。
 「あ、そうだ。ところで原因ってなんだったんだろう」
 「これっちこれっち」
 息切れしているスノーマンの横に、茶色い本がある。しかし前後が引きちぎられていた。
 「この前の本と似てるっちね」
 「そうだな、色は違うけど」
 とえりあえず長老スノーマンに見せてみよう、ということになり、ここでの任務は完了ってことになった。
 まあ、俺は何もしてないんだけどね。イタズラ坊主に振り回されただけで。
 「大陸に戻るのだな。ついてくるといい」
 気分がスッキリしたのか、キツネの口調が元に戻っていた。
 俺と雪ダルマ二体は、道中気をつけられよ、というねぎらいの言葉に送りだされる。色をなくした風景だが、新鮮に映った。
 「まったく、ヨークがいたずらしなかったらもっと早く帰ってこれたっちよ」
 「そんなこといったってちね~。ヒマだったんだっちもん」
 「そういう問題じゃないっちっ」
 ズドンッ、と胴体を勢いよく前にだし体当たりするピクル。ヨークは吹っ飛ばされ、頭と体がばらばらになってしまった。
 ひ、ひいぃ。十メートルは飛んだよなっ。
 「まったくっち、もう」
 「ひどいっち。サクヤ~、助けてっち~」
 雪にも負けないほど顔を白くした俺は、ヨークの体をまとめながら、絶対ピクルを怒らせないようにしようと心に誓ったのだった。
 家に戻ってきた俺たち。俺は休ませてもらい、ピクルは長老雪ダルマに報告を。ヨークは新しくやってきた人形や動物たちと遊んでいる。
 「ヨークの奴め、仕方がないっちのう。サクヤ、すまんちの」
 「いやいや」
 「ヨークはしばらく生き埋めの刑にして反省してもらうっちとして」
 生き埋めって。どんな罰だよ。もはや聞く気にもなれないけどね。
 「じいちゃん、次はどっちの大陸にいくんだっち」
 「順番的に春で止まってる大陸っちかのう」
 行き先についてはこちらの住人、といってよいのかな。とりあえず住んでいる動物たちに任せるほうがよいだろう。
 「サクヤ、ボクは準備してくるっちから、それまで休んででっち」
 「わかったよ」
 そういうと、ピクルたちは部屋をでた。
 少し寒くなってきたので、暖炉のそばにいくと、誰かが読んでいたのだろう本がイスに置かれていた。パッと見た感じ、絵本のようだ。
 時間があるので、何気なく手にとってみると、文字がまったくない。紙芝居のように絵だけが描かれていた。
 読みこまれているのか、中身はボロボロで表紙は比較的きれいな状態。壊したりしないよう、そっと最初までもどす。
 暇だから読んでみようか。
 俺は壊さないように気をつけながらページをめくっていく。
 絵は、雪ダルマや動物たち、妖精だろう小人が仲よく遊んでいる場面から始まる。
 次に軍服っぽい服をきた人間がたいまつをもって現れ、次のページには動物たちをとり囲んでいた。赤色で塗られている背景が、動物たちの心情なのだろうか。
 眉間にしわをよせながらめくると、黄金の銃をもった人間が登場し、たいまつ軍団を追い返すような絵になる。
 黄金銃の所持者は次第に増えていき、彼らの背後にいる生き物たちを狙う黒い銃を手にした人間たちと対峙するシーンになる。
 紙を移動すると、おそらく銃撃戦が終わった直後が描かれているのだろう場面になった。血まみれで倒れている金の銃をもっていた人間たちは、動物たちが必死にすり寄っているように見える。
 次は銃と光った動物たちが描かれていて、隣のページには元気になった人間たちの姿がある。
 そして、最後のページには、人間たちと動物たちが宴会を開き、上のほうには四季折々の様子が描かれていた。
 「どうじゃったっちか」
 うわっ。
 「ほっほっほっ、驚かせたっちかのう」
 ぼーっとしとったっちの、と長老雪ダルマ。相変わらず、室内なのに暑苦しいマントをはおっている。
 「この世界ではニンゲンが英雄扱いされておるのは、そういう理由だっちからの」
 「でもこれ、おとぎ話じゃないんですか」
 「半分はそうかもしれんちが、嘘でもないんだっそうっちよ」
 真実は神のみぞ知るってことか。
 この絵本は、いったい何を意味しているのだろうか。金色の銃と黒色の銃、そして、同じ人間。彼らが示すものと打ち合いになったのだろう状況はどのように解釈できるのだろうか。
 いかんせん元の世界のように文字がないため、何をどう伝えたかったのかが明確にはわからない。しかも、長老雪ダルマの言いかたも少し引っかかるしな。
 とはいえ、考えても仕方がないかもしれない。それよりも、今は元の世界に戻るために何とかしなくちゃいけないし。
 「お待たせっち」
 ピクルが跳ねながらはいってくる。長老スノーマンより厚着なのは気のせいか。
 「どうしたんだっち」
 「いや。暑くないのか、その格好」
 「この部屋だと寒いっちが、大陸にいったらもっと寒くなるっちよ」
 まったく会話がかみ合ってねぇっつーの。
 アレだ。雪だから感覚が真逆なんだろう、きっと。
 「あ、その本、ここにあったっちね」
 「ピクルのだったのか」
 「ボクのじゃなくてみんなのっち。ニンゲンがいかにすごいのかがわかるっちからね」
 うれしそうにビョンビョンするスノーマン。この世界ではヒーローなんだな、人間って。
 「ボクは幸せ者だっち。君の助けができるなんて光栄すぎてとけちゃうっちよ」
 「マ、マジで溶けるぞ、そんなに動いたらっ」
 たいしたことができない俺にとっては過ぎた言葉だ。でも、胸の中が、とても熱くなる。
 大陸の状況を聞いてみると、ケイシャというスノーマンが情報を集めているとのこと。寒暖に関しては、今まで経験したとおりだ。
 問題は。
 「ケイシャはヨークと違って大人しい子だっち」
 心配ないっちよ、とピクル。何をさして心配ないのか不明だが。
 深く考えないようにしているが、どうしてもツッコみたくなるのは、きっと俺だけではないはず。
 バカにするわけではないが、雪ダルマなので、ある意味不安になってしまった。

 

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