スノーマン 玄冬の大陸 後編

 「みんな、聞いてっち。サクヤはみんなをいじめたりし」
 べしゃっ、とピクルは滑ってしまい、頭と胴体が離れてしまった。
 ぎ、ぎゃーっ。何してんだ、こんな非常時にっ。
 「い、痛いっち。サクヤ、助けてっち」
 「どどど、どーすりゃいいんだよ」
 「頭をのっけてっち」
 うわ、胴体だけビョンビョン跳ねてるし。こええ、怖すぎるっ。
 とりあえずいわれたとおりにし、びびりながら頭を持ちあげようとする。だが、たいまつの火に近かった場所が水になっていく。
 「あ、後で雪をつけてくれればいいっちよ」
 我慢してくれるのはありがたいが、気の毒だ。とはいえ、片手では転がすぐらいしかできない。
 俺は動物たちに、
 「な、なあ。このたいまつ、持っていてくれないか」
 差しだすが、距離をあけられてしまう。
 「あ、違う違う。ピクルの頭を乗せなきゃいけないから、その間だけ代わりに持っててほしいだけ」
 少し警戒心がとかれたよう。
 「すぐのっけるよ。あ、そうだ、壁に立てかけておくから、消えないようにだけ見ててくれないか」
 もぞもぞ、と、ひとつ、いや、ひとりの人形が前にでてきた。小さな子が抱えられるかられないかぐらいの、片方の目と鼻がない大きなクマだ。
 『ボク、力ある。持つ』
 「サンキュ」
 しゃがんだ俺から、両手でたいまるを持つクマ。離すとしりもちをついてしまい、おでこに火が映る。
 慌ててとりあげ部分をはたく俺。近くにあった雪をひとつつかみし、額にあててやった。
 「大丈夫か」
 『あつい、ビックリ。平気、ありがとう』
 クマはよいしょ、と立ちあがり、もう一度両手を差しだしてくれた。
 『スノーマン、助ける。手伝う』
 「君ひとりじゃ危ないよ。誰か手伝ってもらったほうがいいって」
 片言だが、言葉が理解できるクマは、しばらく黙った後、そうする、と返した。
 仲間にむきなおり、腕を掲げながら何かを訴えるクマ。いくつかの色が動き、クマの周りに集結する。
 合計五体になった人形たち。クマをはじめ、見覚えのあるキャラクターや女の子が使う人形など、手足のある彼らが同時に手を差し伸べる。
 俺は全員の手の中に入るよう、そおっとおろしてみた。少しぐらついたが、たいまつの姿勢は正したままだだった。
 「よし、すぐのっけるからな」
 急いでピクルのところにいき、意外に重い頭部を胴にくっつける。
 ありがとうっちっ、と話しながら、その場でジャンプする騒ぎの元凶。
 「また分離するから跳ねるなってば」
 呆れる俺の視線は、彼の頭の先っぽにいく。変な形にえぐれた箇所があった。
 「さっき君がつかんだんだっち。痛かったっち」
 「悪い悪い。とっさで」
 「クマ君が助かったからいいっちよ」
 だから跳ねるなってば。ったく。
 許してもらった手前、何となくは恥ずかしく感じたが、たいまつをとりに渡したところへ。お礼をいいながら、手にした。
 色々あって忘れていたが、ここにきた目的を思いだす。
 「ピクル、結局ここがふぶいてる理由って何なんだ」
 「わからないっち。みんなは知ってるっちか」
 不規則な動きをする動物と人形たち。こちらを見るなり静かになってしまった。
 『心当たりならあるわよ』
 背後から声が。先ほどの猫のものだった。
 『あなた、動物は好きかしら』
 「嫌いじゃないよ」
 アレルギーもないし、ときたまペットとたわむれることもあるしね。
 実は俺、兄貴がいるんだけど。
 「だいぶ変人でさ。ハムスターとハ虫類とワニ飼ってるよ」
 親がキレて勘当したけどね。当たり前だが。まあ、本職が飼育員だし、動物大好き人間だから本人は幸せそうだけどさ。
 しかし、組みあわせが謎すぎてついていけないのは間違いない。
 ああ、ピクル以外は引いちゃってるよ。そりゃそうだよね。LINEがつながってたら見せてやりたいぐらい。
 「っつー奴が身近にいるっていうのもあるけど。なんでも平気だと思う」
 『そ、それはそれで面白いわね』
 しっぽを揺らし人形たちの間を割る猫。犬がカルガモのように後ろからついていく。
 空洞にいた動物たちは道を開けてくれ、俺たちも続いていく。
 『人間にも、優しくて責任感のある人ががいるのは、わかってるのよ』
 一部の心ない人間がしでかしたことは、動物たちの心の傷となり残ってしまう、と猫。人間の子供の心と同じだろう、と。
 何もいわずついていく。大半がまともなのに一部の問題人が取りとりあげられ全体がそう見えてしまうのと同様のことが、どの世界にも起こっていると感じた。
 動物の歩くスピードにあわせること、約五分ぐらいだろうか。天と地をつなぐような氷柱が中央にある場所にでた。
 中には、本らしきものが見える。
 『これが原因かはわからないけど、住んでいたらいつの間にかできていたわ』
 おそらくこれだ。怪しすぎる。しかも、本らしき物体もちぎられているようだし。
 「こんなのあったっちかねぇ」
 「ピクル、さっきの爆弾は」
 「もうないっちよ。たいまつで溶けないっちか」
 うーん、どうだろう。
 いわれたとおり照らしてみるが、表面に水滴ができて滴り落ちるぐらい。これだと何日、何十日とかかってしまう。出直してきたほうがよいかもしれないな。
 何気なく触ってみると、おかしなことが起きていた。
 冷たくない、のだ。
 手を置きながら回ってみると、やはりどこも氷じゃない。色と気温のせいでそう感じているだけのよう。
 こんこん、とノックをすると、聞いたことがある音が。
 「ピクル、かなづち持ってない」
 「カナヅチって何だっち」
 あうう。
 「んと。これ叩けば砕けそうだから、先の固いものがほしいんだけど」
 「砕けばいいんちね」
 待ってっち、と肩かけバッグをおろし、中を見始める。
 「ちょっと大きくなっちゃうんちが、いいっちか」
 ドン、と、どこに入っていたのか大きいハンマーがでてくる。本人ならず本ダルマよりでかいっていうのは、どういうことなんだろーか。
 とりあえず、持ちあがるかどうかを試してみる。たぶん金属バットより重いだろうが、重心が先っちょについているのでよくわからず。
 ともあれ、みんなに距離をとってもらうように伝え、一発ホームランの勢いでぶん回した。
 太さの割りにもろかったのか、簡単にくもの巣がはられた柱は、ヒビがすぐに上のほうまいき、細かいかけらが落ちていく。
 ストップしてしまったので、逆側からもう一丁かましてみると、今度は倍ぐらいの早さで崩壊の序曲を奏でた。
 そして、バリバリと音をたてながら、中身をさらけだし、崩れていった。
 ふう、まさか工事現場みたいな経験をするとは思わなかったな。
 俺は本らしきものを拾いあげ、ピクルにハンマーを返す。
 「それは何だっちか」
 「本だと思うけど。何書いてんだかわかんねぇ」
 異国の言葉、としかいいようがないが、学生の頃に教科書で見たエジプトの古代文字みたいなものが描かれている。もちろん、これが本当にそうなのかは不明だ。
 突然、洞窟がゆれ始めた。
 「なな、何だ。地震かっ」
 「ジシンって何だっち」
 「これだよこれ、地面が揺れてるだろ」
 すっとぼけんなよ、こんな非常時にっ。
 『さっきの支柱だったのかしら』
 げ、そこまで頭がが回らなかったし。
 「とにかくこのままじゃヤバい。早く逃げるぞ」
 「あの子たちはどうするんだっち」
 そうだ、人形や動物たちがいるんだった。
 俺の心の中に邪悪な考えと、たいまつを支えてくれた姿が交互に浮かぶ。状況を推し量れば、致し方ないとは思う。
 「とりあえず、みんなのところへ戻ろう」
 走っていくと、動物たちと人形たちは、ペンギンの群れがブリザードから身を守るように縮こまっていた。鼓膜には、泣き声と恐怖の音が振動している。
 「サクヤ、みんなを抱えてっち」
 「こんなに多く無理だよ」
 あ~、クッソ。何かないか、何か。
 「ここに乗り物ないか。サンタが乗るソリみたいなのっ」
 後ろの通路が崩落とともにふさがる。
 彼らは落石に怯え、ますます動けなくなってしまったようだ。
 『これならあるわよ』
 と猫の声。振り返ると、ものの見事に絵本に出て来そうなのがあった。
 「みんな、あれに乗るんだ。早くっ」
 動物たちはすぐに動き、中心部にいるぬいぐるみたちは何故か動きが遅い。仕方がないので、抱えるだけ抱えてソリに乗せ同じ動作を数回繰り返す。
 もはや俺が立っているのが限界なぐらいになってきており、上から落ちてくる小石が大きくなってきていた。
 「全員乗ったな。よし、しっかりつかまれよっ」
 だが動かない。重量オーバーらしい。
 くそっ。
 足を踏ん張り、ようやく数センチ動いたところで隣にでかい岩が落ちてくる。しりもちをついてしまった俺は急いで立ち上がるも、次から次にくる岩の自然現象に耐え切れなくなりそうだった。
 それでもどうにか体重を前のほうに持っていき、ソリを動かしていく。ようやっと順調にいきかけたところに、初めに会った小型犬が手綱をかみ、一緒に引っ張ってくれる。
 スピードが増したソリは、住人たちを連れだし、暖かな光がさす白銀の世界へ。
 最後尾が雪の大地にまぎれると、見計らったように、入口がふさがれる。
 ズズズズ、と、よくマンガで書いてある効果音よりも重く破壊的な音は、ようやく出番をなくしてくれた。
 「お、おうち。わたしたちの、おうちが」
 人形の誰かがつぶやく。
 言葉の意味がわかったのか、一部を除いて雰囲気が暗くなる。
 「ボクの村においでっち。歓迎するっちよっ」
 相変わらずなピクル。恐怖心がないのか、コイツには。みんなで遊ぼうとかいってるし。
 アホなのか図太いのか、元々ワイルドな生活をしているせいのかは知らないが、まあ、元気になったのならいいかな。それはそれで、ね。
 楽しそうにたわれている連中はそっとしておいて、犬にはお礼を、猫には聞きたいことがあったので、ふと見渡してみる。
 しかし、彼らは、どこにもいなかった。
 天候もすっかり機嫌がよくなったようで、ソリを引きながらピクルに案内を頼む俺。スノーマンにも手伝ってもらいながら、おうち、おうち、あたらしいおうち、と歌ったり、あわせてほえたり鳴いたりしているのを聞く。リズム感は最低だが、不思議と耳障りではなかった。
 ようやくレンガの町並みが見えてくる。
 うおっしゃぁ、もうひとふん張りっ。またメシ食わせてくれっかな。
 雪を蹴飛ばし、さっさとでて来た家の前に到着する。
 「ただいまっちーっ」
 上下バラバラなタイミングでジャンプするピクル。ようやく見慣れてきたかも。
 扉が開かれ、オラウータンがでてでた。
 「お帰りなさ~い。あらら」
 「ボクのお友達だっち。じいちゃんいるっちか」
 「呼んでくるわねぇ」
 思ったんだが。あのでかい長老スノーマンじゃあ、あの入口からでられないんじゃないか。
 待つこと、しばらく。時計がないからわからないが、身体が冷えていくのを感じるほどの長さではなかった。
 じいちゃん雪ダルマは家の横からやってきたのだ。
 「おお、サクヤ。上手くいったようじゃっちの。ピクルもご苦労じゃったっち」
 「じいちゃん、この子たちなんだっちけど」
 ピクルはデカスノーマンのそばにいき、今までのことを説明しているのだろう。ともにやってくると、
 「皆、寒かったじゃろっち。ピクルがお家に案内するっちから、ついていくっちよ」
 わあっ、と明るい花が咲き、動物たちが先におりる。だが、ピクルのそばにはいかず、その場で横一列に並んだ。
 その後、ぬいぐるみたちがゆっくりと動物たちの背中に乗る。彼らはようやく動きだし、ピクルのそばに歩いていく。
 二匹一組になった集団は、途中にいる俺に、一回だけ鳴き声を発したり、ありがとう、と口にした。
 「サクヤ、疲れたじゃろっち。まずは休むっちよ」
 多数の背中を見送っていると、急に身体が重く感じた俺は、素直に従うことにした。
 癒しのビーフシチューを食べ、爆睡したあと。シャワーが浴びたくなったので部屋からでてみた。ピクルについていった一部の人形や動物がきており、彼と一緒に遊んでいる。
 「あ、サクヤ。おなかすいたっちか」
 「いや、シャワーをあびたくて」
 シャワーって何だっち、と、案の定だったので、お湯で体を洗い流すことだよ、と話す。世話役のオラウータンがきたので聞いてみると、
 「それならこっちでできるわよ~」
 お湯といったので大丈夫だと思うが、外での乾布摩擦でないことを祈る。しかし、どういうわけか、外界にむかっているような気が。
 雪景色が見える通路をわたり、もう一度ドアを開ける。
 するとそこには、ほとんどの日本人が大好きと思われるモノが。
 「この世界にはこういうのしかないのよ~。ごめんなさいね」
 「いえ、十分すぎまっす。タダで入っていいんですか」
 「よくわからないけど、みんな入ってるわよ」
 うおー、無料で温泉に入れるとはっ。
 ふくもの、つまりタオルを借りてさっさと冷たい空気にとびだして、手で体に源泉をかける。
 思いもよらないできごとに、ほっくほくになった。
 サッパリした俺は、すっかり上機嫌で部屋に戻る。先ほどの部屋に人形たちの姿はなく、大小のスノーマンがいた。
 「おお、戻ったっちの」
 一気に頭のモードが切り替わる。
 「お主、やぱり見込みがあるっちね。早速じゃが、次の問題を解決してほしいっち」
 「見込みがあるって、どのあたりにですか」
 長老雪ダルマは跳ねながら、秘密じゃっちよ、と訳のわからんことをいった。
 「次は季節が秋のまま止まってる大陸をお願いしたいっち」
 ヨークが先に行ってるちよ、と続く。誰だっけ。
 「大丈夫だっちか。イタズラしてなきゃいいんちが」
 「その時は遠慮なくおしおきしていいっちよ」
 おいおいおい、そんな奴に行かせるなよ。
 「まあ、行動力は一番あるっち。サクヤ、頼むっちね」
 このしゃがれ声ダルマ、押しつけてんのかテキトーなのかどっちなんだ。
 超絶不安になりながらも、次の大陸へいくことになった。

 

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