スノーマン エピローグ

 ふと目を覚ますと、白い頭が四つに猫っぽい顔にサルっぽい顔、その他、いろいろな動物のりんかくが目にはいった。数秒後だろうか、なにやら嬉しそうにしているような奇声が聞こえてくる。
 「サクヤ、大丈夫っちか」
 「えー、あー」
 声が聞こえるのはわかるが、誰なのかがわからない。頭がぼんやりしていて、何も考えられないのだ。
 「おい、大丈夫か。しょうがねえな、コイツで気合い入れるか」
 「さすがにそれはやめておいたほうが良いと思うぞ」
 「そうだ。また気を失ってしまったらどうするのだ」
 うーん、鳥の顔をした人とキツネらしき動物が、スコップを持ったモグラと話しているよーな気がする。
 「ふうむ、恐らく酸欠じゃろっち。バードマン、頼めるっちか」
 「わかった。今作ってもらうように言ってくる」
 羽が広がって動く音が聞こえる。どうやら俺は、動物たちに囲まれているようだ。
 しばらくたつと、先ほどと似たような音がする。頭が軽くなった感じがすると、口に甘い味が広がった。
 舌がしっかりとらえた感覚は、徐々に全身がさえわたっていくきっかけとなった。ようやく現状を理解した俺は、飛び起きて周囲を見渡す。
 「緑色の炎はどうなったんだっ」
 「落ち着くっちよ、サクヤ。何のことだっち」
 お水を飲んで落ち着くっち、とピクル。飲んでいる場合かバカッ。
 「本があったんだよ、欠けてる本がっ」
 「そりゃこれのことか」
 モグラさんが手にしていた赤い背表紙の本。四分の一になっているそれは、間違いなくあの場所で見た本そのものだった。
 「お前さんと一緒に湖に浮かんでてよお」
 「いきなりでてきたからビックリしたんだっちよ。そしたら空で大爆発が起こって大きく地面が揺れたんだっち」
 どうやら、俺が気絶している間に天変地異が起こったようだ。よく生きてたな、俺。爆発の発生場所から離れてたんだろう、きっと。
 それにしても、
 「どうして他の大陸の動物たちがいるんだ」
 「うむ、どう説明すれば良いのかわからんが」
 キツネいわく、地震は大陸全土で発生したことらしい。それからバードマンがスノーマンと共に方々に事情を話して回ったとか。
 それでいてもたってもいられなくなった各大陸の代表者が、とりあえずそろったわけである。
 「サクヤが本を回収したと同時に全土が揺れたじゃろっち」
 長老雪ダルマは続けて、こうも話した。
 大陸の中心地である今いるここが突然現れた、と。そして、俺ははじめて、この地が新大陸であることに気づいた。どうりで今まであった動物たちがいるわけだ。
 「ホントにビックリしたっち。だって宙に浮かんでたと思ったらこっちのほうに飛んでったんだっちから」
 どうやって追いかけたんだよ。
 隣でうなずくモグラさんは、
 「ありゃさすがのオレ様もビビったな。海の上を移動したときにゃあ、さすがにイルカに頼んだからよ」
 な、とピクルに対して話す彼。隣では、そうっちね、とうれしそうにはねているスノーマンがいるが。
 いったいどう乗ったんだよ、モグラと雪ダルマが。人間でも乗れないんと思うんだけど。しかも雪は海でとけなかったのか。謎だ、謎すぎる。
 まあ、理解不能なのは今に始まったことじゃないけどさ。心配してくれたのはうれしいし。
 それはともかくとして。この新大陸は空から見たバードマンたちがいうに、四つの大陸をくっつけたぐらい大きく、後ろにある大きな木の枝が全体を覆っているとか。確かにここは木陰になっており、見上げても葉っぱと枝しか見えない。また、近くには川が流れており、魚類が集まってきていた。
 さらにいえば、ここから木とは反対方向のところに大きな湖があり、なぜかクジラらしき生き物と水鳥が混在している。海の生き物と淡水で生活するのとが一緒にいるのである。
 「淡水と海水が混ざっているようでっちの。この島の水ならではじゃろっち」
 も~意味わからん。いいや、もう。
 話は変わって、ジジダルマは、これから大陸中の動物たちを集めて盛大なパーティーをやるという。この大陸が現れてからというもの、季節がめぐりはじめたというのだ。
 「これもサクヤのおかげじゃっち。皆で祝って楽しむんじゃっち」
 こんなにめでたいことはないっちからの、と続ける。ピクルをのぞいたスノーマンたちは、お祭りっち、お祭りっち、といいながらどこかに飛びはねていき、ほかの動物たちも、ゆっくり休むようにいうと、その場を後にした。
 「ゆっくり休むっちよ。主役がいないとつまらないっちから」
 わかった、と口にすると、緑色の羽根を見ながら、後についていく。木の根あたりにちょうどハンモックらしきものがあったので、そこで休ませてもらうことにした。
 いつの間にか眠っていたらしく、意識がはっきりするとよい香りがただよってきた。不覚にも、おなかが匂いの元を求めるように要求してきたし。
 「起きたっちか。大丈夫っちか」
 「あ、ああ。ピクルは」
 「平気っちよ。体、動かせそうっちか」
 肩をグルグル回してみる。まったく問題なく、たってみてもノープロブレムだった。
 「おーい、おーいっ」
 と、やんちゃ坊主っぽい声が聞こえてくる。発生した方角にむくと、体当たりでもするかのような勢いで雪ダルマがやってきた。水色の瞳をしたヨークだ。
 「何だっち。ふたりとも起きてたっちか」
 ちょっとガッカリしているような彼。何をしようとしたんだお前は。
 「準備ができたっちよ。一緒にいくっちよ」
 「わかったっち。サクヤ、いこうっち」
 「ういー」
 雪の妖精にうながされ、俺は二体についていく。そして現場は、百人ぐらいじゃないと食べきれないのでは、というぐらいの料理がテーブルに並べられており、動物園にいるかのような騒がしさに包まれていた。
 テーブルの端には、スノーマンをはじめ、各大陸の代表者たちがいる。彼らの元にやってくると、オラウータンが、ヴァーン、とドラをならす。
 一瞬で静まりかえると全員がこちらをむく。すると、ちょうど小高くなっている木の根へとピクルに押しだされ、長老雪ダルマが隣にならんだ。
 「皆も知ってるじゃろっちが、改めて紹介するっちぞ。この世界を救ってくれた英雄、サクヤだっちぞ」
 ひぃっ。動物たちの歓声、じゃなくて完全に雄たけびって表現したほうがよい。とにかくいろいろな種類の動物たちの鳴き声がいっせいに響く。
 気分はまるでオリにいれられた弱者の気分、である。雰囲気は全然違うけど、ね。
 もう一度ドラがなると、再び何も聞こえなくなる。
 「うおっほんっち、面倒じゃっちから難しい話はいいわいっち」
 皆、存分に楽しんで食べるっちぞ、と長老雪ダルマ。やばい、かなりテキトーすぎてウケる。きっと難しい話をすると逃げるか寝るタイプっぽいな。助かるからいいんだけど。
 笑いと口笛の嵐が起こると、こぞってテーブルの前に行き、食べ始める動物たち。その表情は、みんな嬉しそうで、和気あいあい、というひと言ではいい表せられないような顔だ。
 何ていうんだろ。勝利のうたげってこんな感じなのかな。よく歴史とかで戦いのことをならったけど、当時の武士たちは、もしかしたら、彼らと同じ気持ちだったのかもしれない。
 もちろん、この世界の獣民たちが戦っていたのは自然なんだけどね。人間同士との戦いとワケが違うと思うけど、さ。
 ま。俺は戦争を肌で経験したわけではないから、ちょっと違うのかもしれない。経験したくもないし。
 って、そんなことどうでもいいよな。今は飲んで歌わず食べて楽しむのが一番いい。
 俺は目の前に用意されたごちそうを、ひとつひとつ味わって食べる。ちゃんと人間の口に合うように調理されたのだろうか、野菜は甘く、肉はジューシーだ。後者は少ししか食べなかったけど。
 しかも動物たちの演出がすごい。木の葉や桜の花びらなど、旬が終わったら散るものを空からまいているのだ。まさに恵みが生みだした天然のお祝いである。
 こうした騒ぎが、日が二度沈むまでにわたって繰り返されると、さすがに自由ほんぽうに暮らしている彼らも、興奮がおさまりつつあった。片付けはもちろんのこと、これから自分たちの大陸へと帰るための準備に追われて大忙し。
 当然、俺も手伝ったよ。いいっていわれたけど、さすがにバツが悪いというか、ね。
 役割分担がすでに決まっていたのか、彼らは日が昇ってから再び見えなくなるちょっと前までには、目覚めたときと同じ状態になっていた。
 そして、こうなるのを待っていたのだろうか、今まで集めた本がいきなり光だし、空へと舞っていく。
 幹の真ん中辺りまで浮かんだ本のきれはしたちは、光とともに収束していき、一冊のちゃんとした本となる。
 勝手に開かれると、さらに強い光をだし、全員の視界をうばった。
 感覚でやんだことがわかると、そおっと目を開ける。すると、木全体が淡い水色に光っており、空へとむかう階段ができたではないか。
 それは虹でできたような階段だった。夢の世界にいけるような、そんな気分になる。
 「とうとう、この時が来てしまったようじゃっちな」
 声のトーンを落とした長老雪ダルマ。他のスノーマンたちも先日までのハツラツさが嘘のように消えてしまっている。
 「ど、どうしたんですか」
 「サクヤ、帰るときが来たんじゃっちよ」
 あ、そうか。俺って異世界の人間なんだよな。この世界に人間は、いない。ここは、俺の住んでいる場所じゃないんだ。
 つられて下をむくと、ポヨン、ポヨン、と近づいてくる一体のスノーマン。
 「帰っちゃうっちか。イヤだっち、ずっといればいいっちよ」
 今までで一番力のない言葉だった。こんなしょげたピクルを見るのははじめてである。
 突然やってきたときは、即刻帰りたかったはずなのに、今となってはすごく名残惜しい。厳しくて意味不明なところはあるが、少なくとも自分がいるところにはないタイプの、心温まる場所でもある。
 「ピクル、サクヤを困らせるんじゃないっち。ニンゲンはこの世界を救ったら、帰る摂理なのじゃっち」
 じいさんの言葉に、ピクルはパラパラと、顔から雪を落としてしまっている。よく見ると、他のスノーマンたちも同じだった。
 ピクルは正面から俺によりかかってきて、思わず抱きとめた。一番そばにいてくれた相棒だから。
 姿勢を戻そうとすると、誤って頭を持ち上げてしまったけどね。うぎゃっ、あぶないあぶない。
 「ひどいっちよ、サクヤ。ボクの頭を落とすちなんて」
 「ごめん、ごめん。ついつい」
 察していただけるとありがたい。これは仕方がないだろう。
 少々怒り気味の戻された顔は、またさっきと同じ表情になる。そして、
 「本当にありがとうっち。キミに会えてうれしかったっちよ」
 「俺も。ありがとう、ピクル」
 このままでは、らちがあかないので、俺は虹の階段へと体をむけた。コツコツとなる足音は、別れをより明確にさせる。
 急いではねるような音がすると、
 「サクヤーっ。大好きだっちよっ、ボクたちはずーっとトモダチだっち。ずっーとずっーと、忘れないっちよーっ」
 他の小さいスノーマンたちも同じようなことを、はねながらいってくれる。動物たちも、様々な声と音を送ってくれた。
 目が熱くなるのをこらえながら、俺は振りむき、今までで最高の笑顔をした。手をふり、彼らの声に応える。
 そして、光の中へと進んでいった。
 ふと、体がかるくなると、部屋のベッドに寄りかかりながら寝ていたことに気づく。部屋はうっすらと明るく、スマホの画面は真っ暗だった。
 ぼんやりした頭にひと筋の光が入ると、それが太陽だということを理解するのに時間はかからなかった。机の上にある時計が教えてくれたからである。
 「ゆ、め、だったのか」
 床に落ちてたスマホは、すでに元気をなくしている。充電器に差しこもうとたつと、見たこともない本が、ベッドのど真ん中に置かれてあった。
 いや、正確には、ついさっきまで探していた本の完成版、である。
 しばらく見つめた後、体が勝手に反応する。新品同様の書籍をめくると、雪の中でたたずんでいるひとりの男が描かれていた。
 さらにめくっていくと、夢で見たのと同じ絵が何枚もあり、最後のページには、俺とスノーマンを中心として、各大陸の動物たちの集合写真のような挿絵があった。
 さらにその絵の裏には、敬愛なるサクヤへ。何でもできる英雄、そして大好きな永遠のトモダチにこの本を、と日本語で書かれてあった。
 放心した俺に、朝日はしゃっきりするように注意する。だんだんと光量が増えてきた部屋は、実体感をあらわにした。
 無意識に本を机の上にもっていき、充電器を探してセットすると、散乱している資料をまとめる。イスをたたき起こし、締め切りがせまっている問題へととりかかった。
 それにしても、今まででここ一番に力を発揮した気がする。
 食事もかきこんで少し休むと、また作業にはいる。無我夢中で石をほったときと同じように、不思議なほどつまっていたものが流れていく感じがした。
 ようやくすべてが終わったころには、太陽のほうが気力をなくしていた。だが、俺の中では、まさに日の出をむかえた気分になる。
 最終チェックをし、郵便局に頼んで終わったそれは、あとは結果を待つばかりである。
 思えば、夢とはいえ、ひとつのことをやりとげたのは、あれが初めてだった。それまでは何かにつけて理由を探し、さけていたから。
 逃げられない、と悟ったとき、ニンゲンは本当の力を発揮するものなのかもしれない。嫌になったときは、親友の言葉が何度も浮かんだし、ページをめくって目にとめるようにしていた。
 本当に不思議な経験だったな。きっともう、会うことはない。俺の中だけに、彼らは生き続けるのだろう。
 この、超高級そうな、本とともに。
 そして、あの虹の階段のむこう側で生まれた感情とともに。
 この後、俺がどうなったのか。
 それは、想像にお任せする。

 

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